“高速コース”の2年目の行方を占う 「東京マラソン2018」展望
2回目となった“超高速コース”の東京マラソンの行方を占う 【写真:つのだよしお/アフロ】
(月刊陸上競技3月号より)
世界基準の“超高速レース”
日本国内最高タイムで優勝したウィルソン・キプサング(ケニア)は、今年も記録を狙いに来る 【写真:ロイター/アフロ】
「グローバル・スタンダード」とも言うべき、世界トップレベルの大会に進化したTOKYOには、今回も世界中から有力ランナーが集結。早野忠昭レースディレクターも「2時間2分57秒の世界記録と、2時間6分16秒の日本記録を狙える選手たちを招へいすることができました」と胸を張る。
V候補の筆頭は2年連続で参戦するキプサングだ。昨年は中間点を1時間1分22秒で通過し、30キロまで世界記録が狙えるペースで突っ走った。1月22日に行われた選手発表記者会見では、ターゲットタイムを前回の記録を上回る「2時間3分50秒」と回答。昨年よりもコンディションは良好なようで、コース攻略という点では前回の経験を生かせるというメリットもある。
「東京はこれまで経験した大会の中でも記録が出やすいコース。もっといいタイムが出る可能性はあると思いますし、ディフェンディング・チャンピオンとしてタイトルを守るために参戦します」とキプサング。好タイムでの連覇に意欲を見せている。
本命を追いかけるのは、2時間4分24秒の自己ベストを持つテスファエ・アベラ(エチオピア)、リオデジャネイロ五輪銀メダリストで、前々回優勝のフェイサ・リレサ(エチオピア)、昨年35キロまでキプサングに食らいついたディクソン・チュンバ(ケニア)ら。キプサングと終盤まで競り合う選手が出てくると世界記録に迫れるかもしれない。
海外勢は9人もの『サブ7(2時間7分切り)』ランナーが参戦するだけに、日本勢にとって良き“ペースメーカー”になる可能性もある。昨年12月の福岡国際マラソンで大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)が現役日本人最速タイムとなる2時間7分19秒(日本歴代5位)をマークしたことも有力選手にとって大きな刺激になったはずだ。
ペースメーカーは昨年同様、3段階に分けて考えているという。当日の気象条件などで変わってくるが、第1ターゲットは「世界記録ペース」で、1キロ2分54秒〜55秒。第2ターゲットは「日本記録ペース」で、1キロ2分58秒。第3ターゲットは「2時間6分台後半から7分台」で1キロ3分00秒というペースで、30キロまで引っ張る予定だ。
日本勢は日本記録、MGCラインがターゲット
昨年の東京マラソンで日本人トップになり、世界選手権代表にも選ばれた井上(中央)も世界のトップ選手たちに挑戦する 【写真:つのだよしお/アフロ】
その他の有力日本勢はサードペースメーカー(1キロ3分00秒)について大集団の中でレースを進めるのが濃厚だ。その候補となるのはリオ五輪男子マラソン代表の石川末廣(Honda)、前回2時間9分12秒をマークした山本浩之(コニカミノルタ)、自己記録2時間9分台の佐野広明(Honda)、酒井将規(九電工)、2時間10分台のタイムを持つ木滑良(MHPS)、大石港与(トヨタ自動車)ら。昨夏の北海道マラソンを2時間14分48秒で制してMGCの出場権をすでにつかんでいる村澤明伸(日清食品グループ)にも注目だ。
12年ロンドン五輪5000メートル、10000メートル代表の佐藤悠基(日清食品グループ)、ハーフマラソンで日本歴代9位タイの1時間1分04秒を持つ神野大地(コニカミノルタ)は福岡国際に続いての参戦となる。佐藤は11月の東日本実業団駅伝で左ふくらはぎを痛めたものの、福岡国際では30キロ過ぎまでトップ集団の中で悠々とレースを進めた(35キロで途中棄権)。神野は初マラソンの福岡国際では2時間12分50秒で13位に終わったが、2月4日の香川丸亀ハーフでは1時間2分35秒(17位)と、自身が予定した「1時間3分」をクリアして順調さを示した。2度目のマラソンでどんな走りを見せるのか。
初マラソンとなった前回は2時間19分24秒に沈んだ市田孝(旭化成)も、元日の全日本実業団対抗駅伝の3区(13.6キロ)で区間賞を獲得してチームの連覇に貢献。実績を考えれば大きく記録を短縮する可能性を秘めている。
初マラソン組では、昨年の箱根駅伝2区で区間賞を獲得した鈴木健吾(神奈川大)に期待が集まる。1月7日〜27日には井上、神野、木滑らと日本陸上競技連盟主催のニュージーランド合宿に参加。40キロ走を2本こなすと、距離走では最長となる45キロ走も行った。鈴木の状態について神奈川大・大後栄治監督は「ケガなく練習はできていますが、初マラソンなのでどうなるか分かりません。期待半分、不安半分というところです。これからの調整次第ですけど、30キロまでは集団の中でしっかり走ってもらいたいですね」と話す。
東京マラソンでは、「日本人1〜3位で2時間11分以内か、同4〜6位で2時間10分以内」でMGCの出場権を得ることができる。井上、設楽らが2時間6分台を狙う一方で、他の日本勢は2時間8〜9分台や、MGCの出場権獲得ラインがターゲットになりそうだ。
女子もハイレベルな優勝争いか
昨年はサラ・チェプチルチル(ケニア)が2時間19分台を記録したが、今年も女子の有力選手たちがそろう 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
なお、初マラソンが注目された女子5000メートルの前世界記録保持者、メセレト・デファー(エチオピア)は足の故障が治ったばかりで調整が遅れ、出場するかは不透明。日本勢は永尾薫(Sunfield)、奥野有紀子(資生堂)が日本人トップ候補で、2時間30分が1つの目安となるだろう。
男女ともトップ集団は世界トップレベルの高速レースになる。そこに日本勢がどう絡むのか。2020年東京五輪へ、ワクワク感あふれるようなチャレンジを期待したい。(文/酒井政人)
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