羽生連覇の要因、勝敗を分けた差は? 安藤美姫が平昌五輪の男子FSを解説
フィギュアスケート男子で金メダルを獲得し、セレモニーで笑顔を見せる羽生結弦(中央)。左は銀の宇野昌磨、右は銅のハビエル・フェルナンデス 【写真は共同】
羽生は演技後半の4回転トウループのコンビネーションや、3回転ルッツでミスが出たものの、それ以外の要素では加点を多くもらい、SPからの首位を譲らなかった。
この男子FSの結果を受けて、2007年と11年の世界選手権を制し、06年トリノ大会、10年バンクーバー大会と2度の五輪に出場した安藤美姫さんに各選手の演技を解説してもらった。
SPとFSをそろえてくる羽生選手の強さ
気迫がこもった羽生の演技。ケガからの復帰戦ながら見事な滑りで66年ぶりの五輪連覇を成し遂げた 【写真は共同】
羽生選手が勝てた要因としては、前半のジャンプに加え、後半の4回転サルコウ+3回転トウループのコンビネーションと、トリプルアクセルを含めた3連続をしっかり決めたことが大きかったと思います。スピンの質も高かったですし、5コンポーネンツの評価の高さも勝因の1つです。強いて課題を挙げるとすれば、最後に体力が切れてしまったことでしょうか。五輪ということもあり、見えないところでプレッシャーにさらされていた部分もあったと思います。
そういう意味では、FS1位のネイサン・チェン選手(米国)はSPが悔やまれます。今日のFSを見ていて感じたのはSPの大切さです。今の男子競技では、SPが勝負という側面もあると思います。SPのミスがあったからこそ、今回のFSが見られた部分もありますが、あの演技(4回転フリップを1つミスした以外はミスなし)をされたら誰も勝てないかもしれません。心が無になっていた感じを受けました。五輪初出場であの緊張感の中、こうしたFSの演技をできるのは素晴らしいです。ただ、そういう演技をSPとFSでそろえるのが、羽生選手の強さでもあります。
ネイサン選手は初出場ながらメダルも期待されていました。そうしたプレッシャーにより、ジャンプのタイミングやスピードのずれが起こることはあるので、SPでは自分の体とメンタルがうまくコントロールできなかったのではないでしょうか。ただ、そのSPを経て、FSでは自分のやるべきこと、自分らしいスケートをするという良い方向にリラックスできた部分もあったと思います。普段のジャンプや、技術面の輝き、スピンやステップのレベルも取れていたので、リラックスして臨めたのだと思います。
自分のために自分の力を発揮できたか
国際大会で2位が続いている宇野。「ノーミスで演技をすれば1位になるという計算はしていた」と試合後に語った 【写真は共同】
宇野選手は国際大会で最近2位が続いていますが、今回のインタビューなどを見ていると、どういう演技をしたら1位になれるかと頭の中でイメージを描いていたようです。どの選手も「この演技をすれば勝てる」という計算はするものですが、五輪では何が起こるか分からない。今回はもし冒頭の4回転ループを失敗したあとの気持ちで、最初から臨めていれば、結果は違っていたかもしれないです。
これはあくまで個人的な意見ですが、宇野選手は自分の5コンポーネンツが羽生選手にまだ劣るということを分かっていたので、4回転を何本入れてとか、この構成なら技術点でこれだけ取れるというのを計算していたのかもしれません。人と比べて評価される競技なので仕方ないのですが、もしも自分が今持っている力を発揮することに集中していたら、もう少し自然体で演技ができたように感じました。羽生選手も計算はしていても、自分がやるべきことをやるだけだという気持ちで臨んで、それを発揮できたからこそ、この結果につながった。この試合の勝敗を分けたポイントは、どれだけ自分に集中して、自分のために自分の力を発揮できたかという点だったと思います。