平野歩夢 単独インタビュー 銀メダルを取ったいま、伝えたい気持ち

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銀メダル獲得から一夜明け、平野は落ち着いた口調で今の気持ちを語った 【スポーツナビ】

 男子ハーフパイプで2大会連続の銀メダルを獲得した平野歩夢(木下グループ)。ショーン・ホワイト(米国)やスコッティ・ジェームス(オーストラリア)らと頂点を争った試合は、日本代表の村上大輔コーチも「ハーフパイプ史上に残るハイレベルな戦い」と評価する。

 結果は前回と同じ色のメダルでも、15歳だったソチ五輪当時から平昌五輪を終えた今、平野はどのような成長を感じたのか。スケートボードで東京五輪に挑戦する可能性も報じられたが、今後はどのような道を歩み、どのような足跡を残そうと考えているのか。試合翌日の平野に話を聞いた。

悔しい気持ちは今後につなげたい

――ジャッジに悔しい思いをしたという声もある大会でした。一晩経っていかがですか?

 悔しい部分は当然ありますが、結果はいくらやっても変えられないので。五輪だからこそもっと細かいところを見てほしいという部分もありますが、素直に受け入れなければいけないと自分でも分かっています。

 金メダルを目の前にして、取れたのに取れなかったという形で銀メダルになってしまいました。もちろんそれもすごく大きいことだと思うんです。あとはこれをどう生かしていくかだけなので、うまく自分の今後につなげられればなと思っています。

――結果が出た直後は「ショーンが過去一番の滑りをした」と語っていました。その後に映像を見直したりして心境に変化があったのでしょうか?

 いや、最初から悔しい気持ちもありました。でも(試合直後は)いろいろなメディアの方もいて、ああだこうだと言うのも変じゃないですか。自分自身に対して悔しい部分もあるし、スノーボードをずっと何年もしているので細かい部分について言わせてもらえば、こうだったのかな、なんていう部分もあります。でも表面的には(淡々とした)表情で受け答えをしなければいけないと思って、そこはわりと割り切っていました。

知らないから嫌いになる。だから向き合う

金メダルがその手からすり抜けた瞬間、平野はそっと座り込んだ 【写真は共同】

――五輪イヤーには多くの報道陣に囲まれると思います。私自身も含めて、競技について熟知していない人も増えてくると思います。そのなかで平野選手は、たとえ質問がずれていても、ご自身でかみ砕いて本心で答えているように感じました。簡単な受け答えで済ますこともできると思いますが、そこまでして伝えようという理由はなんでしょうか?

 いろいろな人の気持ちや意見を聞いて受け入れることも、自分の成長になるのかなと。いろいろな人を見て、いろいろな人と会話して、この人はこう思っているけれど周りはこう思っていて、と感じることは、あらためて自分を見つめ直すために必要だと思っています。

 周りの人の意見も聞きながら、自分の本心を貫くにはどうしていけばいいのかと考えながら、コミュニケーションを取るようにしています。

 人にはそれぞれ人生があって、それは否定したくありません。自分をぶつけられる場所はスノーボードしかないので、そこでは自分がやりたい矛先と意思をしっかり持ってやれればなと思います。

――ソチ五輪の銀メダルで一挙に注目を集めるようになったとき、平野選手はまだ15歳でした。「このおっさん何言ってんだ?」と思った時もあったのではないでしょうか?

 当然ありましたね。中学生でしたし右も左もまだ分からない年ごろで、正直スノーボードしか知らないただの少年でした。嫌なものは嫌で、「何言っているんだろう」と本音では思っている部分はあったんですけれど、でもそういうことを何回も繰り返すうちに、そこから何か吸収できるかなって逆に思うようになったんです。

 嫌なものは自分が知らないからこそ嫌なのであって、それを良い方向で吸収することは可能なのかなと考えるようになりました。そう変換できるようになってから、スノーボードでも自分の生活でも、嫌なことに向き合って、嫌な練習に向き合っていけるようになったのかなと。

 自分のやったことのないことでも手を出してみること。そして、そういう嫌な感覚に慣れてみること。人と話すうえでも、スノーボードでも生活でも、すべてを共有させることで、自分自身がもっと大きい土台で成長できればなと思っていました。この4年間でちょっとずつそういう変化があって、自分の考えのベースがだいぶ大きく変わったのかなと思います。

ずば抜けないと海外で成功するのは難しい

――14日の決勝ではUSAコールが起こるなど、まるで米国ホームのような雰囲気でした。X GamesやUSオープンとなればその比ではないのでしょう。アウェーとも言えるなかで戦い続けるのは大変ではないですか?

 スノーボードの大会はほとんど米国開催なので、応援しているギャラリーは米国色が強くなることは仕方ないと思います。

 僕らは数少ない日本人のなかで、さらに数少ない選手。よっぽど「こいつはすごいな」と認めてもらえる滑りをしないと、みんなと同じレベルの滑りをしても、点数が全然出なかったりします。特に初めて海外の試合に出る日本人選手は、すごい不利というか、平等ではない部分があると感じたり、悔しい思いをすることがほとんどだと思います。

 ナメられている……じゃないですけれど、どう思われているのか分からないですが、人と同じ滑りをしてもそう見られちゃうだけなので。周りに興味を持たせるような滑りもライフスタイルも「こいつは誰だ?」ってなるようにずば抜けていかないと、海外で注目を浴びるのは難しいことだと思います。

――かつては国内でも大きなプロツアーがありましたが、今は逆風が続いています。日本で大きいプロツアーに出たいという気持ちはありますか?

 ありますね。自分も家族もそうですけれど、「日本でX Gamesをやってみたいね」とか、米国のX Gamesをやるんじゃなくて、日本にX Gamesを作っちゃおうよって。日本に外国人を呼んで、こっち主催でやりたいなと。そういうものが実現できればいいと思っています。

 そのためには自分の実力と説得力と、周りの仲間が必要になってきます。当然、それは難しいことだとは思うんですけれど、アクションスポーツもそうだし、それ以外でも横乗りを絡めた形で大きいものをやりたいなと思いますね。

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