平野歩夢 単独インタビュー 銀メダルを取ったいま、伝えたい気持ち

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スケートボードなら「夢を変換できる」

2大会連続で銀メダルを獲得した平野歩夢、その視線の先に見据えるものとは? 【写真は共同】

――もしスケートボードで2020年の東京五輪に出ればホームの環境になると思います。東京五輪のことを想像しますか?

 スケートボードで五輪に出たい、東京五輪に出たいというのは、それ自体が目的ではないんです。自分の人生として、スノーボードをやってきましたし、またスケートボードもやってきました。自分は人がやっていない道をたどりたいというか、何の足跡もないところを目指しているので。スケートボードは次回が初めての五輪競技で、また横乗りで冬と夏の五輪に出ている人は今まで日本にはいないと思います。

 両方に挑戦することで、「俺も夏も冬も目指すんだ」という大きい夢を子どもたちが持ってくれたら(うれしい)。横乗りを目指す子どもたちは、両方目指すことで精神的な面でも強くなるだろうし、人間的にも大きい夢を追い続けられるし、それ以外にも共有できる力を持てると思います。

 スノーボードだけやっていたらやっぱり、五輪でダメだったら、次もその次も「金メダル」「金メダル」と言われ続けて、すごい苦しいと思うんですよね。それは、そこにしか自分のフィールドがないから。スノーボードの調子が悪いからスケートボードやってみようとか、スケートボードの調子が悪いからスノーボードやってみようとか、そうやって変換するものがあったほうが、目指すことも楽だと思いますし。

 夢を大きく持って、それを変換できるものを探しているので、そういう意味ではチャンスなのかなって。まだ、やるやらないということは置いておいて、自分の考えていることをしっかりとまとめてから、やると決まったら動こうかなと考えています。

ボードじゃなくてもいい、夢を持ってほしい

――スケートボード、サーフィンが五輪種目になったように、横乗りのカルチャーは以前よりも市民権を得るようになりました。しかしまだメーンストリームとは言い難い部分があると思います。今後どのように変えていきたいですか?

 やっぱりサッカーや野球よりも全然(人気や規模の)レベルが下のスポーツなので。でも、本当にそれくらいビッグで有名なスポーツに持っていくことは不可能ではないと思っています。時間はかかると思いますが、自分がそのきっかけだけでも作って、下の世代にそういう意思を持ってくれる子どもたちが増えることで、このスポーツの影響力を世界中に与えられたらなって。そこに五輪を目指す若い子どもたちが出てくることによって、また夢も大きくなるのかなって思います。

――平昌五輪を見てスノーボードを始める子どもや、久しぶりに滑ろうと思う人が大勢いると思います。彼らにどう楽しんでもらいたいですか?

 スノーボードじゃなくてもいいんです。子どもも大人もおじさんでも、みんな安定した生活より夢を持ってもらいたいと思っています。そういうところに自分は刺激を送りたい。そのことで日本人の力を最大限大きくできればいいですね。

村上大輔コーチが語る平野の成長

 日本代表の村上大輔コーチは「歩夢はこの4年間で人間的にも本当に変わった」と語る。

「勝つためには滑りだけじゃダメだと思ったのではないでしょうか。ソチ五輪のころは受け身でしたが、今は主張することはしっかり主張するようになりました。自分が勝つために、うまくなるために何が最善なのか、先を見据えて考えられるようになったのだと思います」

 スノーボードの技術だけでなく、内面も成長した平野。19歳にして日本代表の誰よりも輝かしいキャリアと経験値を持っているため、チームへ与える影響も大きいのだという。

「歩夢がいることで、片山來夢や平岡卓(ともにバートン)も歳は上ですけれど負けたくないと思って必死に練習するし、戸塚優斗(ヨネックス)は歩夢が憧れの存在なので背中をずっと見ている。この先、歩夢には滑りで引っ張っていってほしいですね」

 だからこそ、14日に各社から一斉に報じられた「平野歩夢、スケートボードで東京五輪へ」といった記事について聞くと、村上コーチは悩ましい顔を浮かべた。

「もしスケートボードをやるならスケートに2年間どっぷり集中しないといけません。そこでスノーボードのトレーニングの量が減るとなると、うち(スノーボード界)としては……。夏と冬の五輪に両方横乗りで出るのはすごいことだと思います。出るだけならできると思うんですよ。でも歩夢は勝つことを考えています。だからそんな簡単には決断できないと言っています。『スケートボードへ!』みたいに記事が出ていますが、これから考えるんじゃないですか」

 自分の夢と他人の夢と、周囲からの期待と責任と。世界のトッププレーヤーである彼は、19歳にしてあまりに多くのものを両手いっぱいに抱えている。もし人生が2回あるなら、2回送ってすべてをかなえてほしいほどだ。

「僕も帰国したら久々にボードやろうと思っているんです」。取材を終えたあと何気なくそう伝えると、平野の顔はうれしそうな、純粋な笑顔でほころんだ。初めて19歳らしい素顔を見た気がした。

(取材・文:藤田大豪/スポーツナビ)

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