選手の“デュアルキャリア”を考える 【対談】皆川賢太郎×小塚崇彦・後編

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アスリートにとってのセカンドキャリアは永遠の課題。皆川賢太郎さんと小塚崇彦さんが持論を語った 【赤坂直人/スポーツナビ】

 アスリートにとって引退は避けられないものだ。どんなに優れた選手であっても、いつかは第一線から退くときがやってくる。そしてそれからの人生の方が長い。その後の人生をどのように過ごすかは、アスリートが抱える永遠の課題と言えるだろう。

 日本アルペンスキーのエースとして五輪に4大会連続出場した皆川賢太郎さんは、現在は全日本スキー連盟の競技本部長を務める。元フィギュアスケート選手で、2010年のバンクーバー五輪に出場し、11年の世界選手権では銀メダルに輝いた小塚崇彦さんは、プロスケーターや、JOCのオリンピックムーブメントアンバサダーとしても活動している。彼らは現役時代から引退後を見据え、さまざまなことに挑戦していたという。

 対談の後編は、アスリートのセカンドキャリアについて。自身の経験を交えながら、それぞれの思いを語ってくれた。

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セカンドキャリアでは遅い

現役時代から起業していた皆川さん。しかし、ある程度の成績を残した選手は、競技を辞めても何かあるだろうと考えていることが多いという 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

――アスリートのセカンドキャリアについて、お二人はどう考えていますか?

皆川 大半の選手は競技をやっているときに「これくらいの成績を残したので、辞めても何かはあるだろう」という人がたくさんいると思うんですよね。それはJリーガー然り、野球選手も然り。ただ、それが結果としてほとんどないことに、引退してから、もしくは最後2年くらいのところで気づく。辞めてすぐにスイッチできないじゃないですか。だから社会で活躍するまでに2、3年はやはりかかってしまう。あれはけっこう厳しいなと思います。美的にスポーツをやっているのが日本人です。例えばビジネスの勉強もしないし、他のこともやらないで、ただただ「スポーツのために」とやる。

小塚 「スポーツばかになれ」というやつですよね。僕はいろいろなことをやりたい人なのでやっていたら、「そんなことをしているならもっと練習しろよ」と言われたことがあります。じゃあ、その人たちが生活の保障をしてくれるのかと言ったら、そんなことはない。

皆川 これは大変失礼な言い方ですけれども、僕は大人と呼ばれる人たちを大人と全く思っていなかったんです。大人というのは、何か生産力がある人のことだと思っていて、大半の大人の言葉は対等として聞いていました。でも多くの選手はやはり大人の方に言われると「偉いだろう」という感覚になるし、名刺に何か書いてあれば「この人はすごいんだろう」と思う。そういう社会風潮が日本は強いから、辞めたときにいきなりそこが抜けてしまう。そういうところも含めて、2020年以降のスポーツのあり方を変えていく必要があると思っています。

「デュアルキャリア」の重要性を説く小塚さん。スポーツ浪人が増えることを危惧する 【赤坂直人/スポーツナビ】

小塚 同時に進行できる環境を与えてあげないと、スポーツ浪人する人が増えてくるんじゃないかと僕は思っています。これはトヨタの上司の言葉なのですが、「『セカンドキャリア』と言うけれども、セカンドキャリアでは遅いんだよ」と。「デュアルキャリア(編注:キャリア形成のプロセスが重なる時期)じゃないとダメ」ということはよく言われています。「小塚、お前はスケートばかりやっていて、それが終わったら何がしたいの?」という感じです。何も決まっていなかったら、その先は何をしたらいいか分からなくて、何もできないよということはずっと言われていましたね。

皆川 僕はスポーツは球体だと思っています。表面は華やかでフレッシュなものなのですが、中身としては産業や、それを下支えする人たち、仕組みが必要になる。全部が表面というわけにはいかない。そういうこと自体を学ばせていないのに「とにかくメダルを獲ってくれ」とか「われわれは競技団体である」ということが、丸の上にしか存在していない。なぜ産業が回っているかを誰も理解していない。そこはやはり選手も学ぶべきだと思います。

小塚 皆川さんが言う、大人の話を聞ける人にならないといけないですよね。聞いているだけではなく、聞いて理解できる人になる必要があるし、いろいろな経験をしていないと、その人たちが話していることを聞いても分からない。

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