選手の“デュアルキャリア”を考える 【対談】皆川賢太郎×小塚崇彦・後編

スポーツナビ

現役時代に描いていた未来

2011年の世界選手権で銀メダルを獲得したころから、小塚さん(左)はスケート連盟で働きたいという希望を持っていたという 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――お2人は現役時代から「引退したらこういうことをやろう」と考えていたのですか?

小塚 僕は2011年の世界選手権で銀メダルを取ったあたりから、連盟に入りたいと思っていました。連盟で何かできることを探そうと。ただ、なかなかそれはパッと見つかるものでもなかった。だから1回スケート界から離れてトヨタに行って、裏方をやったり、スポーツ部のマネジャーみたいなことをやりました。いろいろなところにさまざまな種目の選手たちに付いていっているとき、自分の求めていたものがピンと来たという感じです。

皆川 求めていたものというのは?

小塚 やはり自分はスケートが好きだというのがあって、「スケートを好きになってもらいたい」と思ったんです。まずスケートを知ってもらい、スケートをやってもらって、また来てもらうというのが、自分にとってはピンと来たところです。なので、まさに普及活動だったんですね。自分がいろいろやりたい、いろいろやっていたことが全部ひとつの糸でつながるものこそが「普及」という言葉でした。

皆川 僕はずっとプロでスキー選手をやりながら、出身が苗場スキー場だったので、バブル期の業界は理解していました。だから「この世界で活躍したら有名になれるのではないか」「いろいろなスポンサーをつけてプロスポーツ選手になれるのではないか」という夢があったんですよね。

 ただ一方で、スポーツばかになってはいけないということは自覚としてありました。父が競輪選手で、父は競輪で稼いだお金で田舎にペンションを建てました。そこで僕は生まれたのですが、たぶん父の夢設定のゴールはそこだったと思うんですよね。結局、選手をやっている間に、僕は父と一緒に会社をやるようになりました。そのときに「選手をやりながら起業しよう」と思ってそこからスタートし、今の会社(編注:スキー場コンサルと飲食含む11店舗を運営する会社の代表取締役社長を務めている)は15年くらいになります。選手をやりながらでも、そういう環境下にいたんですよね。

スキー界とフィギュア界の課題とは!?

スキー、フィギュアスケートともに多くの課題がある。現状を改善していくために皆川さんは、改革を続けていくつもりだ 【赤坂直人/スポーツナビ】

――皆川さんは「スキー未来会議」を主宰されています。どのような経緯で始められたのですか?

皆川 スキー連盟に提言するときに、民間的な声がまとまっていないとなかなか提言できない。だから、それを集約するための機関みたいなところとして、最初は考えていました。今も同じように考えていますが、将来的にはそういうことを連盟がやるべきだと思っています。ただ、連盟も成功体験がないと吸収してくれないので、まずは民間型としてやったという感じですね。

小塚 スケート教室に無料で子供たちに来てもらいたいというときに、1回でも成功事例があるとスポンサーさんもイメージしやすく、次の開催の話につながっていきやすい。それと同じ感じですね。

――「スキー未来会議」では、新しいスキー産業をどうやって作っていくかということが課題だとおっしゃっていました。

皆川 そもそも情報の整理自体はIoT(Internet of Things 編注:デバイスなどのモノが、インターネットを通じてサーバーに接続され、情報交換をすることにより相互に制御される仕組み)があるので、すごくやりやすくなったとは思います。ただ、今までは「これはこういうものだ」という定義が、ほとんど口頭と個人の主観論でした。そういうことを見える化するというのが、まずインターネットのすごく良いところだと思っています。正しい情報をプラットホームの中にきちんと入れると、必然的にいろいろな人たちが作戦を立てやすくなる。日本のスキー界で一番できていないのは興行です。興行がないと、自分たちが投資した商品を回収できないし、選手との共存関係もなかなか成立しない。そこはやはり連盟として作りたいと思っています。

小塚 逆にフィギュアスケートは、今の状況に満足してしまっている部分もあるかなと感じます。本当はすごく良い状況なのに、それを生かし切れていないと思います。もっと普及させていくことができるはずなのに、そこまでいけていないところが一番の課題だと個人的には思っています。

――競技の人気を高めるために五輪での活躍はどうしても必要になると思います。お2人は選手たちに今回の五輪でどういうことを期待していますか?

小塚 これまで積み上げてきたものがたくさんあるので、まずはそれを出し切ること。それをすることによって順位というものが付いてくると思います。あとは今スケート界はケガが多いので、まずはそれを治して最高のパフォーマンスをしてほしい。気持ち良く滑ってほしいですね。もちろん金メダル、銀メダル、銅メダルとありますけれど、それ以上に納得して帰ってきてほしいです。

皆川 僕も本当に同じで、やはり4年間投資した時間がみんな各選手にあるので、それが本当に報われる試合になってもらいたいということ。それと自分の立ち位置としては、やはり選手の結果を願うばかりではなくて、一喜一憂せずにやるべき時間軸の中の準備をすることがすごく重要だと思っているので、お互いのゴールが平昌のときに合致するといいなと思います。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント