沖縄から親子2代で“世界”と戦う レスリング屋比久翔平が目指す五輪の夢

下地麗子

ライバルは現役時代の親父

屋比久の武器の一つが“差し”の技術。父親譲りながらも、父親を越える強さを見せたいと話す 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「前につめろ! 前につめろ!! 前につめろ!!!」

 試合になると保さんの声援はいつも会場中に響きわたる。実際、取材者として会場に入る私も、その声援の大きさで保さんがどこにいるかすぐに見つけることができる。

 この父の熱い声援について聞くと、屋比久は「心地いいんですよ」とはにかんで答えた。
「高校の頃、対戦相手に『お前の父ちゃんうるせえ』って言われたんです。でも『これがいいんだよ、これじゃないと聞こえないだろう』って言い返しました。実際、あれだけ『前に出ろ』って叫ばれたら、相手は自分が少し前に出ただけで押されていると感じちゃうんです」

 屋比久は父とともに戦っている。

 そんな屋比久の一つの武器が“差し”の技術と言われる。

 相手の脇の下に腕を差し込み相手の動きをコントロールしやすくするこの技術は、決して派手な技ではないが、レスリングでは基礎と言える技術だ。

 実はこれも父親譲りのものだった。

「親父が強かったと言われても実際どれだけ強かったかは分からないんですけど、周りの先生から、親父の現役時代の“差し”にお前はまだ勝てないと言われるんです。そんな風に言われたらやっぱり親父には勝ちたいと思うじゃないですか」

 ライバルは現役時代の親父。絶対に対戦できない相手だからこそ、圧倒的にそれを上回る強さを身に付けたいと考えている。

2018年は世界で結果を出す年に

アジア大会、世界選手権と続く18年は勝負の年。東京五輪の“金メダル”に向かい、“結果”を出していく 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 国内では負けなしが続く屋比久だが、その視線の先には常に世界がある。

 昨年初出場した世界選手権(フランス・パリ)では3回戦でリオ五輪の銅メダリスト金※雨(韓国)と対戦し2−3で惜敗した。(編集部注:※部分は「火へんに玄」)

 初めての世界シニアデビューで感じた収穫は、押し負けなかったこと。やり方次第では勝てない相手ではないと感じた。ただ課題もある。

「押し出しでポイントを取れても、高いレベルになると技でポイントを取ることがまだできません。前に出つつも一瞬の判断で技を取る、そんな力を付けたいと思います」

 アジア大会(8月、インドネシア・ジャカルタ)、世界選手権(10月、ハンガリー・ブダペスト)と大きな国際大会が続く今年、23歳となった屋比久はこれらの大会を「経験を積む場ではない」と考えている。

「もう経験を積むという年齢ではありません、東京五輪で金メダルを取るためには結果がすべてです」

 親子2代で目指してきた五輪だが、今や屋比久の目標は“出場”ではなく“金メダル”だ。そのために今年は、世界選手権でのメダル獲得を目標に“結果”をストイックに求め続ける。

 沖縄でのわずかな休暇を終え、再び厳しいレスリング生活が始まった。すべては東京での金メダルのために、屋比久の挑戦は続く。

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著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー・スポーツキャスター。現在、琉球放送スポーツキャスター。2016年結婚・出産を機に熊本から沖縄県那覇市に移住。旧姓 河合。ニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う

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