超短期決戦の選手権をブロックごとに分析 人数の変更で選手交代が鍵を握る?

川端暁彦

クセ者たちが居並ぶ矢板中央のブロック

質の高いポゼッションサッカーを見せる昌平(緑)は大会の“初優勝候補” 【平野貴也】

 2つ目のブロックでシードされたのは矢板中央(栃木)。前回大会で同じ栃木の佐野日大が4強入りしたためにシード権を受け継いだ形となったが、それに値するだけのチームに仕上がってきた。U−17日本代表候補だったMF松井蓮之と主将の稲見哲行のダブルボランチを軸に、手堅いサッカーで上位を狙う。多彩な技巧と左足のキックで魅せるMF飯島翼など交代選手のクオリティーが例年になく高いのも今大会のレギュレーション変更を考えると重要なアドバンテージだろう。

 現在の高校サッカー選手権は12月30日に開幕戦、1月の第2月曜日に設定されている成人の日に決勝戦が行われるフォーマット。前者は固定だが、後者は暦に応じて動く方式で、今年は1月8日が第二月曜日となった。このため、開幕戦から決勝戦までの期間が制度上、最も短くなってしまい、優勝を目指すチームはこの過密日程との戦いを余儀なくされることとなる。これに加えて、選手交代人数が今大会から従来の4名から5人に拡充されたため、選手層の厚み、ベンチメンバーの質がより問われることになったのも間違いない。その意味で矢板中央のように、チームとしての試行錯誤を重ねる中で選手層に厚みを持てたチームが強みを出しやすい大会となった。

 とはいえ、矢板中央が本命とは言い切れないのがこのブロック。初戦で当たるのは夏の高校総体で大敗した悔しさを糧に燃える三重(三重)だが、その隣の山も熱い。MF山下勇希が中心となる質の高いポゼッションサッカーを見せる昌平(埼玉)は、大宮アルディージャ内定のFW佐相壱明の存在もあって、大会の“初優勝候補”。その昌平と初戦で当たる優勝経験校の広島皆実(広島)もMF藤原悠汰ら好選手を各ポジションに配するハイレベルなチームで、1回戦指折りの好カードとなった。

 その勝者と当たるのは大会最多出場を誇る名門・秋田商(秋田)と清水エスパルス内定“情熱のファンタジスタ”MF高橋大悟主将が引っ張る技巧派集団・神村学園(鹿児島)。ここを破っても、待っているのはU−18日本代表FW圓藤将良ら魅惑の攻撃陣をそろえる総体8強の旭川実(北海道)、堅守をベースに引き出しも多い立正大淞南(島根)、雪国の超絶技巧派・久住玲以を擁する日本文理(新潟)、OBで元Jリーガーの酒井貴政監督を迎えて復活を期す作陽(岡山)、前年度16強の名門・遠野(岩手)、徹底した堅守が光る宜野湾(沖縄)といったクセ者たちが居並ぶ。どこが抜けてくるか何とも読みづらいブロックだ。

第3のブロックは大阪桐蔭、京都橘が本命か

 3つめのブロックはシード校の大阪桐蔭(大阪)が本命だろう。9年ぶり2度目の出場となる経験の浅さはあるものの、プリンスリーグ関西を圧倒的な戦績で制し、全国最激戦区の大阪を勝ち抜いてきた実力はホンモノ。MF西矢健人主将を軸にしたまとまりの良さも魅力的な好チームだ。初戦の相手は元Jリーガーの本街直樹監督が率いて6年ぶり出場となる羽黒(山形)だが、いきなり栄冠に輝いてもおかしくないだけの地力はある。

 萬場努監督率いる“走る日立”明秀日立(茨城)も面白い。大会でも指折りであろう2年生DF高嶋修也を軸に、驚きをもたらす可能性はある。初戦は進学校の高知西(高知)。例年は夏を境に3年生が抜けるが、今年は軸となる選手が残り、粘りを見せてきた。その勝者と当たるのが星稜(石川)と松山工(愛媛)の勝者だが、この対戦も面白い。前年度はまさかの県予選敗退となった星稜の今大会への意気込みは並々ならぬものがあるだろうが、松山工も個人のキャラクターが見える攻撃陣が魅力で、見ていて面白いチーム。プロ注目の大型GK伊藤元太もおり、激戦の予感がする。

 その隣の山では京都橘(京都)が本命か。FW岩崎悠人のようなスピードのあるストライカーを生かす速攻スタイルからボールを保持するサッカーへと転換を図ってきた今年の集大成となる。初戦の上田西(長野)は隠れた逸材と名高い大型FW根本凌を擁しており、一発を狙う展開となりそう。ここを抜けると、次の相手は関西の超名門・滝川第二(兵庫)が本命か。これに3バックの粘り強さが身上の実践学園(東京A)、夏の総体の1回戦で京都橘を相手に粘りを見せた帝京大可児(岐阜)、県予選の準々決勝から決勝までを「1−0」で勝ち抜けた徳島北(徳島)が挑む構図だ。

今大会の優勝候補・前橋育英は東福岡と同ブロック

東福岡(赤)は今季ここまで好成績を残していないが、本命の1つ。前橋育英と同じブロックに入った 【平野貴也】

 最後のブロックのシード校は前年度準優勝の前橋育英(群馬)。ガンバ大阪内定のDF松田陸、アルビレックス新潟内定のDF渡邉泰基、U−18日本代表DF角田涼太朗など当時の経験者がズラリと居並ぶラインナップは大会の優勝候補と断じていいものだろう。初戦から難敵・初芝橋本(和歌山)が相手となるが、ブロックの本命であることは揺るがない。

 とはいえ、簡単ではない。まず何と言ってもすぐ隣に東福岡がいる。G大阪内定のMF福田湧矢、ファジアーノ岡山内定のDF阿部海大の二枚看板に注目が集まるが、MF木橋朋暉、青木真生都など他にも実力者がズラリとそろう。今季ここまで好成績を残していないが、そうしたチームが「瞬間最大風速」をここで出してくるのは、選手権でよくある話。もっとも、初戦から強敵の尚志(福島)が相手で、勝っても徳島ヴォルティス内定FW坪井清志郎を軸とした強力攻撃陣を誇る富山第一(富山)と初出場ながら地力十分の東海大星翔(熊本)の勝者が相手と、厳しい戦いが続きそうだ。

 この勝者と当たる山の本命は指折りの激戦区を団結力で駆け抜けてきた桐蔭学園(神奈川)か。地の利もあり、戦力もある。関西の名将・前田久監督率いる一条(奈良)との初戦を乗り切れば、一気に勢いに乗る可能性もありそうだ。もっとも、実力差がある印象はなく、U−18日本代表の超強力FW加藤拓己がけん引する山梨学院(山梨)、伝統の守備に加えて攻撃にも味が出てきた米子北(鳥取)、城福敬監督(サンフレッチェ広島・城福浩監督の実兄)が「いい流れできている」と自信を見せる仙台育英(宮城)、そして23回目の出場となる名門・高松商(香川)にもチャンスはありそうだ。

 レギュレーションの妙から超短期決戦となる今大会、96回目の王者は果たしてどのチームか。12月30日の開幕戦から1月8日の決勝戦まで、どこかが勝ってもおかしくない、独特のワクワク感に満ちた戦いが極まることとなる。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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