弱いとファンが集まる“奇特”なクラブ フェイエノールトを支えるファンの存在

中田徹

CL初勝利に沸いたフェイエノールト

すでに敗退が決まっているCLで、フェイエノールトはナポリを下し初勝利を挙げた 【Getty Images】

 チャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ最終節で、フェイエノールトはナポリを2−1で破った。CLでは5連敗後の初勝利にホーム、スタディオン・フェイエノールトは沸きに沸いた。

 試合後の記者会見で「私はナポリから来た者だが」と英語でジョバンニ・ファン・ブロンクホルスト監督に質問し始めた記者がいた。

「ここまでフェイエノールトは5連敗。今日の試合は(すでに敗退が決まっている)フェイエノールトにとって、何の意味もない試合だった。しかも、立ち上がり早々、フェイエノールトは0−1のビハインドを負った。それでもなお、フェイエノールトのサポーターは熱狂的に応援し続けた。その結果、フェイエノールトは2−1で勝った。とても印象深かった」

 ファン・ブロンクホルスト監督は「フェイエノールトサポーターの作る熱狂はものすごい。私はこのスタジアムを愛しているよ」と答えた。

0−10の完敗後、ファンから拍手が送られる

フェイエノールトは、弱いとファンがスタジアムに集まる“奇特な”ビッグクラブだ 【Getty Images】

 フェイエノールトは、弱いとファンがスタジアムに集まる“奇特な”ビッグクラブだ。2010年10月、リーグ戦でPSVに0−10と完敗した後、翌節のVVV戦で満員のファンがスタディオン・フェイエノールトを埋め、ウォーミングアップに出てきた選手たちに拍手を送ったのは記憶に新しい。これを伝統というのだろう。

 ナポリ戦の前半、フェイエノールトのサッカーは、CLに求められるレベルから程遠いものだった。それでも、前半終了間際にニコライ・ヨルゲンセンのヘッドで同点に追いつくと、後半のフェイエノールトはチャンスこそなかなか作れなかったものの、ナポリ相手に互角以上の戦いを見せた。

 それでも後半38分にトニ・ビリェナが不必要な2枚目のイエローカードをもらい退場した時には、近年「へぼ将棋」ならぬ「へぼサッカー」が著しいオランダサッカーらしい負けを覚悟したが、アディショナルタイムにジェレミア・サン・ジュストが執念のゴールを決めて勝ってしまった。

 試合後、『ラララの歌(ユー・ウィル・サバイブ)』をファンが絶叫する中、まるでCLの決勝でゴールを決めたかのように喜ぶ選手たち――。鳥肌が立ち、感動を覚えた瞬間だった。こうして「5連敗後の消化試合」は、「2017−18シーズンのフェイエノールトは、最後の最後でナポリを破って美しくCLの舞台から去ったんだよ」と、いつまでもファンの記憶に残る試合になったのである。

欧州カップ戦の成績が振るわないオランダ勢

ELに出場したフィテッセも1勝しか挙げられず敗退。オランダ勢の成績は振るわない 【写真:ロイター/アフロ】

 もちろん、大勝利を収めたかのように振る舞う選手、ファンに対して、「だからといって、オランダサッカー界の危機は変わらない」と冷静に分析する人たちもいる。

 今季の欧州カップ戦においてオランダ勢はアヤックス、PSV、ユトレヒトがヨーロッパリーグ(EL)グループリーグにすら勝ち上がれず、フェイエノールト(CLに出場)は5連敗後に、フィテッセは(ELに出場)2回の引き分けと3敗の末にやっと1勝を記録した。

 オランダリーグはCLおよびELの結果に基づき算出される、UEFAクラブ係数ランキング(12月8日付)では28位に沈んでいる。アゼルバイジャン(21位)よりも、カザフスタン(23位)よりも、ベラルーシ(26位)よりも、マケドニア(27位)よりも、オランダリーグは弱かったのだ。人々がスタジアムから遠ざかっても仕方のない惨状だ。実際、オランダ代表の試合は空席が目立ち始めている。

 それでも、「5連敗後の1勝」を「世紀の勝利」のように熱狂し、心から喜び心から泣けるファンがいる限り、オランダのサッカーは死なないと私は信じるのである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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