久保裕也の言葉で追う紆余曲折の前半戦 監督交代でチームが復調、自身も復活へ

中田徹

監督交代で14位から5位へジャンプアップ

一時は自分を失っていた久保だったが、監督交代後に徐々に調子を上げてきた 【Getty Images】

 監督交代は果たして良薬となるのかどうか、意見は分かれるところだろう。久保裕也の所属するゲントに関して言えば、答えはイエス。16チーム中14位という不振にあえいでいたゲントは、10月に就任したイベス・ファンデルハーゲ新監督の元、約1カ月半で順位を5位まで上げてきた(第17節終了時点)。この間の成績は6勝1分け1敗、得失点差は15ゴール5失点というものだ。

 久保裕也も徐々に調子を上げてきた。10月27日(現地時間、以下同)のシャルルロワ戦ではペナルティーエリアの中で巧みな切り返しからシュートコースを作り、カーブをかけたコントロールシュートで相手ゴールのサイドネットを揺らした。11月24日のムスクルン戦ではハーフウェーライン辺りからドリブルでボールを持ち込み、左右の足を使った細かいタッチとシザースでマーカーを翻弄(ほんろう)してからシュートを決めた。いずれもゴラッソである。

 チーム同様、一時は己のあるべき姿を失っていた久保が、やっと自身を取り戻した――。観客席から見ている私は、そう感じている。

つまずきのきっかけはEL予選の敗退

 ゲントほどのクラブだったら、ヨーロッパリーグ(EL)のグループリーグ進出は義務に等しいが、その予選でラインドルフ・アルタッハ(オーストリア)に苦杯をなめてしまった。久保が不発に終わったアルタッハとの第1レグは、彼にとっても今季のつまずきのきっかけになっていた。

「僕ら(3人のアタッカー)は前で待っていて、一瞬の動きでパスを受けろという感じ。でも、受けた後がなかなかない。今は個人でやるしかないという状況です。そのことは他のチームメートも言っていました」(アルタッハ戦後の久保)

 アタッカー陣に与えられたハイン・ファンハーゼブルック監督(当時)の指示は「下がってくるな」。3−4−2−1フォーメーションの“2−1”は相手バックを背負い続ける形となり、チームの調子が上がらない中、久保もなかなか思うような形でボールを受けることができなかった。

 8月27日のアンデルレヒト戦(0−0)、久保は残り16分のところでMFブレヒト・デヤーヘレに代わってピッチに入っていった。この交代によって、ゲントは1トップ2シャドーシステムから、久保をトップに置く2トップ1シャドーシステムに変わったかのように思えた。

「多分、コーチから『左サイド』って言われたんですけれど、左サイドにいてもアレかなと思って、真ん中で好きにプレーしていました」(アンデルレヒト戦後の久保)

 実際にはもっと左に張ったところからプレーするようコーチから指示を受けてピッチに入ったのだが、そこでのプレーのイメージが沸かなかったのか、自身の判断で久保はストライカーの位置でプレーした。

右サイドでの葛藤

第10節のベフェレン戦から指揮を執るようになったファンデルハーゲ監督 【Getty Images】

 9月20日、ベルギーカップ6回戦、ゲントの相手はアマチュアのヘール(3−2でゲントの勝利)だった。この時の久保は1トップ2シャドーの右シャドー。しかし、サイドでのプレーも多く、「“3枚の右”になると右にステイになるので、右でどうにかしないといけない。どういうポジションで受けて、どう仕掛けていくかというのがいまいちピンとしないというか。受けてもあまりイマジネーションがない」と袋小路にハマってしまった。

 その4日後、ベルギーリーグ第8節のズルテ・ワレヘム戦を0−1で落とし、16チーム中14位になったゲントの首脳陣はファンハーゼブルック監督の更迭を決断。ピーター・バレット暫定監督を挟んで、第10節のワースラント・ベフェレン戦からファンデルハーゲ監督が指揮を執るようになり、チームと久保が右肩上がりで調子を上げていった。

 ファンデルハーゲ監督のもと、久保が最初からスムーズにいったわけではない。久保に与えられたポジションは4−2−3−1の右ウイングだった。ファンハーゼブルック監督時代より、さらにサイドからプレーすることが久保に要求されたのだ。右ウイングとして2試合目となったコルトレイク戦(10月21日、1−1)後、久保は右ウインガーとしての難しさを語っていた。

「右サイドで相手に引かれた時に受けて、ボールを持って仕掛けて――、というのができていない。それができれば、だいぶ状況が変わると思う。もうちょっと右サイドをやれるようになれれば……。というか、代表でもそれをやっていますし、課題かなと思います。足元で受けた時に1枚はがせれば相手をぶっちぎれる。このチームは多分、そういうサイドアタッカーが求められるので(自分にも)そういうのが必要かなと思いました」(コルトレイク戦後の久保)

 久保の話を聞いていて、「サイドに張って足元にボールを受けて、そこから縦にドリブルで仕掛けてチャンスメークするのが久保の特長なのだろうか?」という違和感が残った。この試合で久保は64分でベンチに退いた。そろそろスタメン落ちもあり得そうな雰囲気だった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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