「サッカーを続けたい」それぞれの想い トライアウトで感じた現役へのこだわり

宇都宮徹壱

参加者の平均年齢27.5歳という厳しい現実

讃岐の契約を満了した木島(29)。30分の出番の中で1ゴールを決めてアピールした 【宇都宮徹壱】

 今季のJリーグ全日程が終了したばかりの、とあるスタジアム。スタンドが静けさに包まれている中、ピッチ上では青と黄色のビブスを身に着けた選手たちが、盛んにコーチングしながらボールを追いかけていた。彼らがビブスの下に身につけているのは、さまざまなクラブのトレーニングウエア。もうお気づきだろう。12月の6日と7日、私はJPFA(日本プロサッカー選手会)トライアウトを取材していた。

 12月上旬の風物詩となっているトライアウト。今年の参加者は107名で、最年長は40歳の冨田大介(徳島ヴォルティス=カッコ内はいずれも最終所属クラブ)。そして最年少は20歳の斎藤翔太(水戸ホーリーホック)である。参加者の平均年齢は27.5歳。この数字に、あらためてプロの世界の厳しさを実感する。とりわけ今回は、横浜アリーナで開催されたJリーグアウォーズを取材した翌日だったので、そのコントラストの激しさに軽いめまいを覚えそうになった。

 トライアウトの流れを説明しておこう。参加者は青と黄色のビブスに分けられ、簡単なオリエンテーションののちに各自でアップ。最初に7対7のミニゲームを行い、それからフルピッチで30分の11対11のゲームを行う。当然、ポジションが被る選手がいるため、事前に第1希望と第2希望を出してもらい、なるべく希望に沿えるように主催者側が調整することになる。一方、スタンドに訪れた関係者はJPFAの資料によると6日が186名で7日が164名。多かった6日の内訳は、Jクラブが88名、JFL以下の社会人クラブが59名、海外クラブが4名、そしてエージェントが35名であった。

 これだけ関係者が集まる中、次のチームが決まる選手はどれだけいるのだろう。こちらもJPFAの資料によると、昨年のトライアウト参加者104名のうち、79名が移籍先を見つけたという。逆に言えば、残りの25名はそのまま引退したことになる。当然、今年参加する選手もまた、プロサッカー選手として生き残るために必死だ。とはいえ、アピールできる時間は長くても60分。しかも即席チームゆえに、コンビネーションの問題はもちろん、アピール合戦の様相を呈してしまうこともよくあることだ。そんな中、個人的に気になった選手を何人かピックアップすることにしたい。

現役続行を後押しした「マツさんの想い」

2年ぶりに参加した長野の塩沢は「サッカーが好きなのでずっと続けたい」とコメント 【宇都宮徹壱】

 トライアウト1日目の朝、「こんにちは!」と明るく声をかけてくれる選手がいた。塩沢勝吾(AC長野パルセイロ)、35歳である。2年前のトライアウトの際、たまたま流れで一緒に食事をする機会があり、私のことを覚えてくれていたようだ。塩沢は当時、5シーズンプレーしていた松本山雅FCでの契約が切れ、次の移籍先を探していた。

 この日、塩沢は1本目の10分にGKとの1対1の場面を作るも、ゴールには至らず。それでも2本目の13分に養父雄仁(V・ファーレン長崎)のゴールにつながるパスを供給し、その直後に交代となった。試合後のミックスゾーンでは、「本当にサッカーが好きなので、ずっと続けたいですね。やりがいのあるチームなら(カテゴリーが)どこでもやっていきたい」と言い切る塩沢。そういえば2年前も、教員になる道をいったん封印して「ボロボロになるまで(現役を)続けたい」と語っていた。その思いは、今も変わっていない。

 1日目の午後は、木島良輔(カマタマーレ讃岐)がピッチに立っていた。横浜マリノス(当時)を皮切りに、8つのクラブを渡り歩いた木島も今年で38歳。14年の長野とのJ2・J3入れ替え戦では、J2残留を決定付ける貴重なゴールを決めたのは印象深い。しかし、ここ3シーズンのゴール数は1桁が続き、ついに4シーズン在籍した讃岐を離れることとなった。この日は、他の追随を許さないくらいの存在感を見せつけ、1本目の10分に見事なヘディングでのゴールを決めてアピールしている。

 木島がプレーしたのは1本目の30分のみ。ピッチを後にする彼の表情は、いかにも「やりきった」という感じで、かなり消耗しているようにも見えた。「歳も歳なので、引退試合だと思ってやりました」とミックスゾーンで語る木島。さらに、松本時代のチームメートだった松田直樹の名前を出して、こう続ける。「マツさんの想いというか、自分から辞めることはしてはいけないかなと」──。

 横浜F・マリノスを去ることとなった松田が、プレーの場を求めて当時JFLの松本にやって来たのが2011年。同じ年、木島はFC町田ゼルビアから、そして塩沢は佐川印刷(当時)から、それぞれ松本に移籍してチームメートになっている。松田は33歳、木島は31歳、そして塩沢は29歳であった。あれから6年。J2昇格を見ることなく天に召された松田は34歳のままだが、木島と塩沢はその年齢をとうに追い越してしまった。それでも彼らが現役に執着する背景には、故人の想いが色濃く反映されているのかもしれない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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