各地を点在して再認識した「浦和」の魅力 ライター島崎の欧州サッカー見聞録(6)

島崎英純

悠久の古都「ブルッヘ」へ移動

ブルージュは街全体が世界遺産に指定されている悠久の古都です 【島崎英純】

 またまた電車移動。でも、駅員に「ブルージュ」と言っても通じませんよ。こちらの表記では「Brugge(ブルッヘ)」。街全体が世界遺産に指定されている悠久の古都です。小便小僧とは比べものにならない……、ゲフンゲフン。

 ブルッヘへ向かう車内に若い日本人女性陣が乗り合わせています。彼女らの会話から「デブリ」「アロケーション」「チーフ」などという単語を聞いて僕、ピンときました。彼女たちは国際航空路線のキャビンアテンダントでしょう。ちなみに「デブリ」はフライト後の打ち合わせ「De-Briefing(デブリーフィング)」のことで、アロケーションとは機内の乗務員の配置のことです。当然彼女たちもブルッヘで下車したのですが、おそらく軽装だったので明日のベルギーvs.日本のゲームを観戦する目的ではなく、普通に市内観光へ訪れたのでしょう。残念。

 さあ、そして、ブルッヘに着いた僕は気付いてしまいました。ベルギーは、ビールの国じゃないですか! 紀元前8世紀にはすでにビールが醸造され、8世紀に無類のビール好きであるカール大帝が各地の修道院にビールを作らせたことで北ゲルマン地域全域に浸透した「神の水」が、ここベルギーでも着実に歴史を紡いでいるのです。素晴らしい!

 市内中心部最大の建造物「ブルージュ鐘楼」は荘厳ですが、僕にはその横にある「ビール博物館」の方が気になります。でも、これから僕は試合取材に行かねばならない。強烈に後ろ髪を引かれた足取りはどこまでも重く、市内近郊にある試合会場のヤン・ブレイデルスタディオンは、どこまでもくすんで見えました。

ベルギーで聞かれたなつかしいJリーガーの名前

世界遺産も素敵ですが、ビールの方が気になります 【島崎英純】

 試合前のミックスゾーンはさすがに両国のメディアで埋め尽くされています。中にはベルギーや日本以外の記者も。僕の隣に座った男性が優しい英語で「君はどこから来たの?」と聞くので、「ドイツからです!」と返すと、「君はドイツ人なのか?」と問われてややこしくなったので「日本から来ました」と言い直しました。彼はオランダ在住のモロッコ人らしく、アムステルダム近郊から車で2時間ほど掛けて来たとのことです。そしておもむろに「このモロッコ人を知っているかい?」とスマホの画面を見せられたのですが、そこには以前、名古屋グランパスでプレーしたタリック・ウリダ選手の勇姿が。彼によると、ウリダ選手はオランダ・アムステルダム生まれですがモロッコ人を両親に持ち、名門アヤックスでもプレーした経験のあるレジェンドだそうで、彼が日本でプレーしたときのことを直接本人から聞いたこともあるそうです。やっぱりサッカーの世界はどこまでも地続きなんですね。心地良い感慨に浸っていると、メディアルームの遠方に何やら見覚えのある欧米の方が……。

「あれは……、もしや……、ア・デモスでは?」(1999シーズン途中に浦和レッズの監督に就任するも、チームは翌シーズンから創設されるJ2へ降格した)

 すると、隣のモロッコ人男性が言います。
「君はア・デモスを知っているのか! 彼はオランダでは有名人だよ。今はテレビのコメンテーターを務めていて、今回もベルギーと日本の試合を解説するために来たようだね」
 それを聞いた僕。
「ああ、確かにミスター、ア・デモスのことは知っていて、日本でも有名なのですが、どちらかというと悪い意味で……、あのー、降、降格……」

 すると、返す刀で彼が発します。
「なに! 彼がナゴヤを落としたのか! そうか、それは良い印象じゃないよなぁ。仕方がないね、それは、うん、うん」

 いまさら「落ちたのは浦和レッズというクラブです。日本のJリーグの歴史上、初めて下部に降格したクラブです」なんて言うのも面倒くさいので、「そうなんですよー、いやー、グランパス、大変でした(去年)」と言って同意しておきました。グランパスサポーターの皆様、申し訳ございません。

連載はここでいったん終了します

埼玉スタジアムの空間は、「浦和」だけが醸し出せる稀少な魅力です 【(C)J.LEAGUE】

 試合内容はブラジル戦と同様にサラッと。ナセル・シャドリの4人抜き、クロスからロメル・ルカクにゴールを決められて日本、0−1で敗戦しました。試合前にテロ発生情報が流れて1時間前まで開催の是非が検討されていたことなど露知らずの僕らメディア陣は、試合後の取材が終わり、誰かの「夜中の12時に街の中心部に行くバスが来るよ」という言葉を信じてバス停で1時間待ちぼうけ。ようやく来る気配のないことを悟ってトボトボと歩くことを決意した直後に無人のタクシーに拾われて命拾い。親切な運転手さんに街の中心で降ろしてもらって上空を見つめると、空には満点の星空と、鐘楼を装飾するきらびやかなイルミネーションが鮮やかなコントラストを描いていました。

 さて、ここまで6回お送りした「ライター島崎の欧州サッカー見聞録」はここでいったん終了します。なぜならば、僕はこれから日本へ帰り、浦和レッズのACL(AFCチャンピオンズリーグ)決勝第2戦のアル・ヒラル戦を取材するからです!

(時空が歪み……)

 やった! やりました! 浦和レッズ、2007シーズン以来10年ぶりにアジアタイトルを奪還致しました! サポーターが彩った壮大なビジュアルサポート、選手を鼓舞するコールの数々、ボールボーイまでもが飛び跳ねて声援を送る一体感……。ラファエル・シルバのゴールがズドンと決まった瞬間の大轟音、そして歓喜。あの日、あのときの埼玉スタジアムの空間は、「浦和」だけが醸し出せる稀少な魅力。僕は、さまざまな場所を点在したうえで、そのことを深く深く再認識しました。

 僕はまた、来年の初めに欧州へ赴き、その文化、風土、様式、情熱に触れる生活を続けます。次なる旅まで、皆様も、どうか穏やかで健やかな日々が過ごせますように。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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