原口元気は正真正銘、ヘルタの選手です ライター島崎の欧州サッカー見聞録(3)

島崎英純

原口元気がやりました!

バイエルン戦でで今季初の先発出場を果たした原口元気はアシストをマーク 【写真は共同】

 やった! やりました! 原口元気がやりました! 10月1日のブンデスリーガ第7節、ホームのバイエルン・ミュンヘン戦で0−2の劣勢から起死回生のアシスト。得意の左カットインから、最後はペナルティーエリア内右奥まで流れてオンドレイ・ドゥダへ右クロスを送り、見事バイエルンゴールをこじ開けました!

 あっ、すみません……。すでに月日は流れ、今は国際Aマッチウィークに突入し、原口らが参加している日本代表は、ニュージーランド代表やハイチ代表と戦っているんですよね。しかし、残念ながら僕の連載は隔週……、なので2週間の時空を越えて、皆様にその”熱”をお伝えしております!

 いやー、ベルリンのオリンピアシュタディオンは興奮の坩堝(るつぼ)と化しました。ドゥダのゴールから6分後にはサロモン・カルーの同点ゴールも生まれましたから、そりゃあ、もう大騒ぎ。ベルリナーキンドルがうまい!(注:ベルリンの地ビールのことです)。ヘルタのサポーターは大都市の住民特有の慎ましやかな風情が特徴だったはずですが、このときばかりはどんちゃん騒ぎでした。なんせ、いつもは空席が目立つオリンピアシュタディオンがほぼ満員の71,212人で埋まったんですから、その熱狂度は計り知れません。ベルリン名物のカリーヴルスト(カレー風味ソーセージ)をこぼして、隣の女性の真っ白なワンピースを汚しても、今夜は無礼講です!(こぼしたのは僕ではありません)。

原口はフンメルスもかわし、中央にセンタリング。ドゥダがゴールを決めた 【写真:アフロ】

 ちなみに僕は元気が左サイドでボールを受けた瞬間に中腰になって「打て!」とさけび、ジェローム・ボアテングをかわしたときには「打っ!」と声を漏らし、ジョシュア・キミッヒの追走を振り切ってマッツ・フンメルスをもかわしたときには「うっ……」と呻(うめ)き、最後にクロスからドゥダがプッシュした瞬間には「うっ、わー!」と意味不明の言葉をさけんでいました。言葉を羅列すると「打て、打っ、うっ、うっ、わー」ですね。あまりに興奮したので、得点までのディティールを覚えておらず、あとで本人に「いやー、よく3回も相手をかわしたよね!」と言ったら、「2回だよ」と冷静に返されてしまいました。

 なぜ僕が今回これほど興奮したかと申しますと、これまでの約1カ月半、元気がチームで出場機会を与えられない中でも、日々精進を怠らなかった姿を柱の陰からじっと見つめていたからです。バイエルン戦のアシストは偶然ではなく、彼が地道に努力を重ねた証だった。それを思うと、このアシストが一層感慨深く心に染みます。

ヘルタの練習を見にオリンピアパークへ

ヨーロッパリーグのビルバオ戦は後半40分から出場した原口 【写真:アフロ】

 バイエルン戦からさかのぼること半月前。UEFAヨーロッパリーグ・グループステージのアスレティック・ビルバオとのゲームでスコアレスドローに終わった翌日、僕はヘルタの練習を見学しに練習場のオリンピアパークへ向かいました。

 広大なオリンピアパークの一角にある新緑のグラウンドには、前日のゲームに出場しなかった選手、もしくは出場時間が限られた控え選手が集まり、トレーニング前のリフティングに興じていました。もちろん、その中にはわずか数分の出場に終わった元気の姿もあります。そしてグラウンド脇には、いました! 指揮官のパル・ダルダイ監督です。なんだかバック転しそうなお名前ですが、熊のような体型で強面の監督からは、そんな仕草は想像できません。

 ダルダイ監督は練習開始直後のメニューをコーチに任せ、自らはピッチを仕切るマーカーを何度も置き直しています。おそらく後ほど、ここでエリアを区切ったミニゲーム、もしくはパスゲームなどのメニューを消化するのでしょう。それにしても、監督はマーカーの位置が気に入らないのか、何度も何度も置き直します。列に対して均等に置かれていないと歩幅で測り直してポン。横幅をもう少し広く取った方がいいかな? 距離を確かめてポン。ん? 対角のマーカーとズレてないか? 目を細めてポン。風貌に似合わず意外と神経質な方なんですね。その間、選手たちはコーチの合図に合わせてダッシュやストップアンドゴーなどのランニングメニューを続けています。

 おっ、ようやくダルダイ監督の出番がきたようです。選手を一堂に集めて何やら訓示をした後、あらかじめ用意しておいたエリアに選手を散らばらせて一言。

「よーし、お前ら、そのマーカーを後ろに2メートルずらせ! ん、それでいい。じゃあ、パスゲーム、スタート!」

 ええー、あれだけ細密に調整したマーカーを結局選手に置き直させるんですか! しかもメニュー開始直前だから選手もポーンって感じでマーカーを放り投げてるからマーカーが無造作に散らばってるんですけれども……。監督が黙考していたあの30分間は一体何だったのか。僕は選手たちのプレーぶりよりも監督の仕草や所作が気になって、気になって仕方がありませんでした。練習後に元気が「どうだった?」と聞くので、「うん、マーカーが気になった」と答えるのが精いっぱいでした、はい。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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