ケルンサポから無償の愛を受ける大迫勇也 ライター島崎の欧州サッカー見聞録(5)

島崎英純

ケルンの試合日はドームの前が酒盛りの場に

ケルンにはわれらが日本の代表FW大迫勇也が在籍 【Getty Images】

 僕は今、ドイツ・ノルトライン=ベストファーレン州の大都市ケルンの仮住居で暮らしています。ただ、僕が住んでいる街はケルンといっても、中心部からローカル列車で約20分ほど揺られたところにある田舎町で、住居の外からは時折、馬の嘶き(いななき)が聞こえる大自然の中。なので、ケルン中心部に出掛けるときは小旅行の気分でして、何だか心が躍ります。

 ケルンといえば、真っ先に思い浮かぶのが大聖堂。正式名称は「ザンクト・ペーター・ウント・マリア大聖堂」と言うそうですが、こちらの方は総じて「Dom(ドーム)」と呼んでいます。場所はケルン中央駅の目の前で、利便性が良いので各国から多くの観光客が訪れています。ただ週末の、ある催し物がある日は、このあたりも様相が一変します。そう、地元の方々が愛するドイツ・ブンデスリーガ1部のサッカークラブ、ケルンのゲームが開催される日は、ドームの目の前が酒盛りの場へと変ぼうするのです!

 ケルン名産の地ビールといえば、「ケルシュ」。ところで皆さん、ビールって、どんな工程を経て製造されるかご存知でしたか? あっ、あまり詳しく説明し出すとスポーツナビ編集部の敏腕編集者Tさんに「これはサッカーの連載です。ビール探訪原稿ではありません」と叱責されてしまうので端的に記しますが、ビールには大体7項目の工程があって、(1)原料選定、(2)製麦、(3)粉砕、(4)仕込み、(5)発酵、(6)熟成、(7)ろ過・熱処理とあるんですね。

 その内の(5)発酵という中に上面発酵、下面発酵、自然発酵という3種類の製法があって、上面発酵を「エール」、下面発酵を「ラガー」と称するんです。で、日本の代表的なビールはたいてい下面発酵のラガーでして、ケルシュはというと、こちらは上面発酵のエールに分類されるんですね。ただ他のエールはアルコール度数が高く、味に深みがあり、ときに苦味も効いているに対して、ケルシュは苦味も刺激も少ない軽やかな印象で、パカパカと飲み干せます。なのでケルシュは200mlの「シュタンゲ」と称される小さな円筒型のグラスで給され、現地の方々はそれを一気飲みしています。

 ただし、こちらの居酒屋でのしきたりはシュタンゲを「クランツ」というお盆に載せたウェイターさんが店内をうろつき、客がビールを飲み干したのを瞬時に察知してサッとおかわりのビールを置いていく、いわゆる「わんこそば形式」なのであります。素晴らしい!

トラムにサポーターが大挙して乗り込んできて……

スタジアム行きのトラムはサポーターが大挙して乗り込んできて全然前へ進みません(写真は空いていますが……) 【島崎英純】

 いかん、ビールの話で500ワードくらい書いてしまいました。閑話休題。
 11月5日、僕はブンデスリーガのケルンvs.ホッフェンハイムのゲームを観戦しに向かいました。ケルンにはわれらが日本代表のFW大迫勇也が在籍し、ホッフェンハイムは若き指揮官ユリアン・ナーゲルスマン監督が率いるという僕的に興味深い好カード。ウキウキ気分でケルン中央駅からトラムに乗り込みましたが、このトラム、とにかくケルンサポーターが大挙して乗り込んできて全然前へ進みません。

 駅に着くと次々にケルンのユニホームを着た御仁が大声を張り上げながら突入してくるので車内は通勤ラッシュ状態。で、大概の人はケルシュの大瓶を小脇に携えている。あっ、麗しき妙齢の女性が伝統のケルシュ「ガッフェル」を片手に持ってラッパ飲みしています。その姿が勇ましいと思ってしまうのは、僕がビール教の信者だからでしょうか。

 乗客が多すぎてトラムのドアが閉まりません。すかさず車掌さんのアナウンスが鳴り響きます。
「えー、あー、満員の車内に乗り込むとドアが閉まりません。皆様、次のトラムをお待ちください。無理に乗るとドアが閉まらないので、いつまでも発車できません」(島崎の脳内ドイツ語再生)

 それでも乗客たちはお構いなし。そこかしこで「ウェーイ!」だの「うっひょー!」だのと嬌声が飛び交います。すると、今度は怒気をはらんだ車掌さんの声が……。
(再び島崎の脳内ドイツ語再生です)
「あー、うー、(ブチッ。何かが切れる音)、ああ、オマエラ、ウゼー。もう我慢できねぇ。オマエラ、もう、ここで降りろ。スタジアムまで歩け。ホレ、降りろ、降りろ」

 車掌さんブチギレ。それを聞いた乗客たち、意気消沈したかのように整然とトラムを降りていきます。何だかんだいって、ドイツの方々は節操があるんですよね。叱られたら反省する。で、誰も文句も言わずに約2キロ先のスタジアムへ歩いていきます。何だか可愛い。その一団には、もちろん僕も含まれています。

ケルンサポーターの雰囲気に圧倒される

ケルンの応援歌は荘厳で、いつ来ても、この雰囲気には圧倒されてしまう 【島崎英純】

 ケルンの本拠地「ラインエネルギー・シュタディオン」にようやく着きました。ここは約4万6,000人収容の中規模なスタジアム。起工は1923年と古いですが、2006年のワールドカップ・ドイツ大会の会場として新装され、臨場感あるサッカー専用スタジアムとして多くの観客を集めるケルンの聖地です。何よりケルンサポーターは熱狂的でして、今季のブンデスリーガで11試合を消化して総勝ち点2のダントツ最下位にもかかわらず、今日も超満員! なにしろ2部に降格したって常時フルハウスになってしまうんですから、チームの順位なんて関係なし! いや、関係あるか。「しっかりしろ、お前ら!」ってな感じで叱咤(しった)激励したいのか、とにかく今日も熱狂的なサポーターでスタンドが埋め尽くされております。

 ドイツ国内のテレビでは連日ケルンの動向が取り沙汰されていて、ペーター・シュテーガー監督の去就問題にも発展していますが、スタジアムの雰囲気はあくまでもチームを後押しする空気で充満しています。ケルンのサポーターは献身的、楽観的、享楽的。今、そこにあるお祭りを楽しむ。それが彼らの矜持(きょうじ)なのでしょう。

 さっそくケルシュを飲もう! って、コンコース内の売店は長蛇の列ですさまじい人だかり。「ケ、ケル、ケルシュを、アイン(一杯)……」、大声で叫んでも店員には一向に伝わりません。なんだったら、スタジアム内も町中の居酒屋と同じく「わんこそば形式」にしてもらいたいなぁ。席でビールを飲み干したら、クランケを持った売り子さんがサッとグラスを入れ替えてくれたらいいなぁ。売り子さんを5,000人くらい配備したら可能じゃないかなぁ。で、飲んだ分の料金をスタジアムを出るときに支払うんです。払わなきゃ外に出られない。これで試合終了後はのんべえだけがスタジアムに取り残され、他の方々は混雑のストレスなく帰路につける。一挙両得じゃないですか。あっ、そろそろ試合が始まりそう。

 ケルンの応援歌は荘厳です。クラブのサポーターズソングはドイツ語で「Hymne」といいます。例えばボルシア・ドルトムントのHymneは有名な『You'll Never Walk Alone』。ケルンのはスコットランド民謡の『Loch Lomond』というもので、サポーターはチームマフラーを頭上に掲げて一斉に合唱します。その間に選手たちが入場し、サポーターはサビに入るとマフラーをクルクルと回すんです。いやー、素晴らしい。いつ来ても、この雰囲気には圧倒されてしまいます。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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