ドイツで感じた関根貴大の“大物感” ライター島崎の欧州サッカー見聞録(1)

島崎英純

9月初旬、ヨーロッパのドイツにいます

17シーズンの浦和はルヴァンカップ準々決勝敗退、リーグ戦8位と近年になく苦しい立場に 【Getty Images】

 ヨーロッパのドイツにいます。今は9月初旬、日本はまだまだ残暑の季節なのでしょうか? こちらは湿度も低く、日差しが注ぐ昼間は暖かいですが、夜になると肌寒い空気が吹き抜けます。ただ、ヨーロッパの夏から秋にかけては晴れ間がのぞく日が多くて、とても過ごしやすいです。しかもドイツの秋は日没が遅くて、今でも夜の8時前くらいまでは明るいんです。だから今のドイツの街は開放的な雰囲気を纏(まと)っているような気がします。

 なんて言いながら、実は僕自身、この季節にヨーロッパを訪れたことがありませんでした。それは僕がJリーグのクラブの取材を生業とするスポーツライターだったから。僕は主に浦和レッズの試合を取材する記者として約16年間ほどチームを追いかけていました。ちなみに2017シーズンの浦和はミハイロ・ペトロヴィッチ監督との契約をシーズン途中で解除して、堀孝史新監督が新たに就任するという風雲急を告げる状況。8月30日、9月3日にセレッソ大阪との間で争われたYBCルヴァンカップ準々決勝では惜しくも敗退し、Jリーグでも首位・鹿島アントラーズと勝ち点13差の8位(第24節終了時点)と、近年になく苦しい立場に立たされています。それなのに僕は今、ドイツにいるのです。

しばらくのあいだ、世界の最先端にあるヨーロッパのサッカーシーンに身を置きます 【島崎英純】

 長年Jリーグ、そして浦和の取材を行ってきて、僕はその経験が自らの内面に蓄積していく手応えを感じていました。その一方で、既存と異なる事象に関しては情報収集が足りないのではないか、見地が狭いのではないかと自問するようにもなりました。例えば浦和について批評、論評を行うにしても、自己に知見がなければ意味を成さないのではないか。ここ数年はそのジレンマに陥っていたのですが、今回、一念発起してしばらくのあいだ世界の最先端にあるヨーロッパのサッカーシーンに身を置いてスキルを高めようと思い立ちました。

脳裏に焼きついた「真のサポーター」の姿

“ユナイテッドの貴公子”に暴言を浴びせる少女の姿が今でも鮮明な記憶として残っています 【Getty Images】

 僕が初めてドイツを訪れたのは02年の秋。当時務めていたサッカー専門誌の出張で、これが自身初のヨーロッパ訪問になりました。当時はもちろんドイツ語を介せず(今でも!)、拙い中学英語を駆使しての旅はアクシデントの連続だったのですが、その中でも強烈に脳裏に焼き付いているのは現地の試合会場の雰囲気でした。

 僕が最初に赴いたゲームはUEFAチャンピオンズリーグ・グループリーグのバイヤー・レバークーゼン(ドイツ)vs.マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)。レバークーゼンのホームである「バイ・アレーナ」は新緑がまぶしい公園内にあり、生い茂る森の中を突き進むと突如、威容を誇るスタジアムが姿を表します。大男たちがビールを一気飲みしている場面に遭遇し、「いやー、試合前からエキサイティングだなあ」と思ったのですが、現地の方々の興奮ぶりはそれだけにとどまりません。

 コンコースを抜けてスタジアムの中に入ると、レバークーゼンのユニホームを身にまとった可愛い少女がピッチ上でウォーミングアップしているアウェーチームの選手に何やら叫んでいます。どうやら、その対象は当時マンチェスター・Uに在籍していたデイビッド・ベッカム選手のようで、「黄色い声援でも送っているのかな?」と聞き耳を立てると、なんと可憐な少女はドイツ語のスラングで“ユナイテッドの貴公子”に罵声を浴びせているではないですか。

 事前に少しだけドイツ語を勉強してから行ったので、少女が叫ぶスラングの「シャイ○!」はすぐ理解できました(笑)。このときに思ったのです。「この少女は、真のレバークーゼンサポーターなんだ!」と。試合結果は1−2で惜しくもレバークーゼンが負けてしまったのですが、地元の少女がありったけの力を振り絞って、相手選手に痛烈な言葉を浴びせていたその姿は、今でも鮮明な記憶として残っています。 

関根選手の様子を見るため、インゴルシュタットへ

とりあえず関根選手の近況を観察しようと、インゴルシュタットへ向かいました 【写真:アフロ】

 さて、長期滞在を決めた今回のドイツ渡航で真っ先に向かったのは、ドイツ南東部に位置する歴史ある都市・インゴルシュタットでした。インゴルシュタットは西暦806年ごろにはすでに当時の文献に登場していて、幾多の戦火をしのぐ中で街中に要塞を築き上げ、今も旧市街には当時の面影を残す建造物が並んでいます。一方、街の中心にはかの有名なドナウ川が流れていて、その雄大な川面と美しい様式を誇る建物とが相まって、静謐(せいひつ)な空気が漂っています。

 なぜ僕がこの街を訪れたのかといいますと、8月上旬に浦和に所属する関根貴大という選手が海外への移籍を決め、インゴルシュタットを本拠とする「インゴルシュタット04」というブンデスリーガ2部のクラブへ加入を果たしたからです。インゴルシュタット04はその名のとおり、04年に創設された新興クラブで、ドイツのプロチームの中では1部の「RBライプツィヒ」に次いで2番目に新しいクラブだそうです。

 ただインゴルシュタットは昨季、1部から降格してしまい、今季は1年での再昇格を目指して2部で戦っています。そんなインゴルシュタット04の愛称は「シャンツァー(Schanzer)」。これはインゴルシュタット市民のあだ名でもあり、その意味は「堡塁(ほるい/土塁、石塁などを巡らせた砦)を構築する者」とのことで、かつてインゴルシュタットが堅牢な要塞都市だったことに由来するそうです。

 そのインゴルシュタット04で、関根選手が屈強な大男たちに囲まれながら、自らの持ち味を発揮できるのか。海外生活への戸惑いはないか。人見知りが海外に行ったらどうなってしまうんだろう? そもそもドイツ語は話せるの? 英語も怪しいのでは? 本人以上に不安が募った僕は、とりあえず彼の近況を観察しようと、インゴルシュタットへ向かったのです。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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