健常バドミントンからパラへ――「金の卵」今井に決意させた敗戦の記憶
国際経験で気づいた自身の課題
高い攻撃力を誇るショットを武器に世界と戦う今井。現在は正確性を身に付けようと練習に励んでいる 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
「パラバドミントンを始めたら、同じ上肢障がいの選手はショット後に体が流されることが分かったんです。でも、リク選手にはそうしたバランスの悪さが全く見られませんでした。しっかり体を使って瞬時に反応し、力強いショットを打ってくる。打った後もすぐに次のプレーを続けている」
今井は障がいを意識せず、右腕を利用することが可能だ。それでも、リクのプレーを見て改めて全身をしっかり使うことの大切さに気づいたという。
日本体育大バドミントン部の大束忠司監督が言う。
「今井の持ち味は力強いショット、攻撃力です。が、正直、他の学生選手と比較するとまだまだ技術力が足りない。それが障がいによるものなのか、それをどんなトレーニングで克服できるのか。体の使い方、バドミントンとしてのテクニックを含め、今井にあったアプローチを探り続ける必要があると考えています」
今井自身、これまでの国際大会経験からショットの正確性を上げることが、最優先課題だと感じている。
「高校生までは曖昧なままショットを打っていました」
ショットの精度を上げるためにはひたすら地道なノック練習を続ける。同じところにシャトルを出してもらい、それをピンポイントで狙った目標に返す練習だ。ほんのわずかに手首を返す角度や力が変化すると、それに伴ってスピード、距離、方向が変わる。それを、自分の意思でコントロールすること。疲労がたまる試合中の厳しい場面で、瞬時に実現できるように自動化させなくてはならない。
来年のアジアパラが東京の試金石
継続しないつもりだったパラバドミントンだったが、今は2020年東京大会でのメダル獲得を目指して奮闘している 【写真:宮崎恵理】
「車いすを操作してのけ反って打ったり、ドロップショットを拾ったり。車いすでバドミントンを体験させてもらったことがありますが、ラリーができない。前に落とされたら、取れないんです」
また、義足でジャンピングスマッシュする大腿切断の藤原大輔(SL3)の姿にも目を奪われた。
「体力測定で垂直跳びや立ち幅跳びをしたのですが、藤原選手は義足を外して片足だけで測定する。なのに、自分と同じ測定値を出すんです」
その脚が「こーんなに太い」と自分の腕で大きな輪を作って見せた。
「僕の脚2本分くらいあるんじゃないかな」
藤原は、今年9月、東京・町田市で開催された日本初の国際大会のシングルスで優勝した。今井は、同大会でリクに準決勝で対戦しストレート負けを喫した。
「町田の大会で、改めて優勝することの難しさを感じました」
パラバドミントンに転向以降、リクとの対戦はアイルランドの国際大会、16年のアジア選手権、そして町田の国際大会の3度。まだ1度も勝利を手にしていない。
来年には、アジアパラ競技大会がある。アジアが世界を席巻するパラバドミントンでは、この大会は東京パラリンピックの試金石になる。
「インドネシアにはリク選手に勝った選手もいる。とにかく彼らから1勝を挙げること。そうすれば、東京のメダルがより明確になると思っています」
ひたと目標を見据えて、今井は世界に挑み続ける。