対談連載:トップランナーであり続けるために

29歳、プロアスリートを支えるもの 初山翔(自転車競技)×福島千里(陸上競技)

高樹ミナ
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提供:明治

初山翔(左)と福島千里。同じ歳の二人がトップアスリートとして活躍し続けられる秘けつを語った 【水上俊介】

 トップアスリートとしてそれぞれの舞台で第一線を走り続ける人たちがいる。厳しい世界でなぜ彼らは光を放ち続けられるのか。スポーツナビでは、そんなアスリートたちの声を対談連載「トップランナーであり続けるために」で紹介する。

 第1回は、ともに国内外で活躍するプロアスリートの自転車・ロードレースの初山翔と、陸上短距離の福島千里。二人は同い年の29歳で、一般的に体の変化を感じ始めると言われる年齢にあたる。それでもパフォーマンスを進化し続けてこられたのはなぜか。お互いが目標に掲げる3年後の東京五輪への思いとは。30歳を目前にした二人のベースにある過去、さらなる飛躍を目指して戦う現在、そしてプロのトップアスリートとして辿り着きたい未来について本音を語ってもらった。

初山「30歳前後は脂の乗った良い時期」

――福島選手は2017年の今シーズンからプロに転向されたばかりですが、何が一番変わりましたか?

福島:これまで拠点にしていた北海道から東京に練習環境を移しました。周りのスタッフにすごく助けられていますし、足の速い選手と練習をする機会が増えたこともあって、今までの自分のリミッターを外して、また新たな目標、大きな記録に向かって良い感覚をつかみつつあります。今はもうオフなので、冬季の練習は割と量をこなしながらも質を落とさずやっていくことを心がけています。初山さんはプロになって何年になるんですか?

初山:6年になります。「来年はもう30歳だね」と言われることもありますが、ロードレーサーにとって30歳前後はかえって脂の乗った良い時期。自分自身、体の衰えをあまり感じていなくて、むしろ経験を積んで、どんどん研ぎ澄まされていく感じがあります。実際、パフォーマンスも上がっていますしね。疲労に関しては確かにあるんでしょうけれど、それほど大きく感じてはいません。アマチュア時代やプロになってからもいろいろな失敗をして知識を身につけたことで、若い頃よりも自分のカラダのコントロールや、ケアが充実してきたのだと思っています。福島さんは今の年齢になって練習量などは変わりましたか?

福島:私も若い頃に比べて練習量が減ったということはなく、むしろ増えているくらいです。ただ、やはり以前とは違うのだという意識は持って、疲労対策をしっかりやらなければと思っています。自転車のロードレースって、普段どんな練習をするんですか?

今回が初対談となる二人。同じ年ということもあり、会話も自然と弾む 【水上俊介】

初山:ロードレースにはいくつか形態があって、例えばクリテリウムと呼ばれる比較的走行距離の短いものから、国内最長だとツール・ド・おきなわのように200キロを超えるものまであります。ちなみにツール・ド・おきなわだと5時間は走るので、それを超える練習量が必要になってきます。走行時間にすると6時間くらい。もちろん毎日それだけ走るわけじゃなくて、短い時は2時間くらいという日もあります。

福島:6時間、長い! 私はそんなに長くないですよ。その日の練習メニューにもよりますが、ウオーミングアップとクールダウンを含めて2時間半から3時間くらいです。ちなみに長い距離のレースだと、どれくらいエネルギーを消費するんですか?

初山:3000キロカロリーを超えますね。レース中は消費エネルギーもさることながら、多少、脱水気味にもなるので、僕らは走りながら食事や水分を取ります。これって他のスポーツにはなかなかありませんよね。長丁場のロードレースでは最後まで力を出せるようエネルギー戦略がとても重要なのです。だからレース前の食事やレース中のエネルギー補給はもちろんですが、レース中、体脂肪のエネルギーを使うことを意識して、レース前は必ずアミノ酸VAAMを摂っています。レースの時だけでなく、練習も長時間なので、今シーズンは特に日頃からのエネルギー戦略を意識して取り組んでいました。

現在29歳の初山だが、トレーニングやカラダのケアが充実したことで今まで以上に研ぎ澄まされた感覚があるという 【写真提供:明治】

「課題ばかりだった栄養面」

――アスリートの体づくりには食事と栄養が欠かせません。お二人は日頃、どんなことに気を配っていますか?

福島:私、食事と栄養に関しては、もともと全然ダメダメで。昔から食が細いというのもあるんですけれども、食べる量も栄養も全く足りていなかったんです。それが8年前から明治の管理栄養士・村野あずささんにサポートしていただくようになって、大きく変わりました。初めて村野さんの食事調査を受けた時なんて、課題ばかりだったんですよ(笑)。体づくりに欠かせないたんぱく質も一日のエネルギー摂取量も、一般の女性並かそれ以下だと驚かれました。こうして振り返るとお恥ずかしい限りですが、村野さんの熱心な指導のおかげで食事に対する意識が変わり、今は食事もトレーニングの一環。一日に3食取るということは、1年に365日×3回も自分を強くするチャンスがあるんだと考えるようになりました。

初山:え、福島さんもそうだったんですか!? 実は僕も食事や栄養に意識が向いたのはここ1年くらいなんですよ。5年前からブリヂストンアンカーサイクリングチームに所属し、明治さんに栄養サポートをしていただいているのですが、今シーズンに入る前のオフに明治の栄養士・案浦美保代さんに「僕の食事を見てもらえませんか?」とお願いして。なぜかというと、パワーをつけるために体を大きくしたいと思っていたからなんです。案浦さんの食事アドバイスって、すごく実践しやすいんです。例えば鉄分が足りないから毎日レバーを食べなさいと言われても、実際はそんなに食べられないじゃないですか。そうではなくて簡単に買えて、料理にも困らない食品を写真付きで提案してくれます。

福島:私もそうでした。初めはどこからどうすればいいのか分からなかったんですけれど、体に必要な5大栄養を簡単にフルに摂れるように、(1)主食(2)おかず(3)野菜(4)果物(5)乳製品をそろえる「栄養フルコース型」の食事という方法を教わりました。難しい栄養知識がそれほどなくても、献立を考える時のベースになるのでとても助かっています。

以前は食が細かったという福島だが、栄養指導を受けて意識改革に取り組んできた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

初山:そういえば福島さんは今シーズン、足のけいれんに悩まされた時期があったと聞いていますが、思うように練習できない時、栄養面ではどんなサポートを受けたんですか?

福島:けいれんの原因は一つじゃないので、栄養状態や体調の変化を把握し、戦略的な水分補給だったり、食事もエネルギー源の炭水化物(糖質)を十分に摂れているかを村野さんに見てもらってアドバイスをいただきました。それは今も継続中です。今シーズンの序盤は4月の織田記念・予選を途中棄権したのに始まり、5月のセイコーゴールデングランプリではウオーミングアップ中に起きたけいれんの影響もあって100メートルで6位。さらに世界選手権の選考会も兼ねた6月の日本選手権も思うような結果を出せずに終わりました(100メートルで2位、200メートルで5位)。あの時期は本当に苦しかった……。でも村野さんはじめ、サポートしてくれるチームがあって、みんな一緒に考えてくれて。自分一人じゃないというのが、すごく助かりました。そのおかげで7月の南部忠平記念では100メートルで優勝することができました。

初山:僕も今シーズンは6月の全日本選手権で落車して鎖骨を骨折したんですよ。ただ、僕の場合、練習できない期間が逆に体のリフレッシュになった部分もありました。とはいえ、継続して負荷をかけるトレーニングができなくなってしまったので、元の状態に戻すのは容易ではありませんでした。福島さんはもともと食が細いということですが、コンディションが落ちている時に食事は摂れましたか?

福島:食べ物が喉を通らなかったですね。村野さんに「ちゃんと食べているの?」と余計な心配をさせてしまうほどでした。いつもはできることができなくなってしまって、本当に苦しくて。そういう時にかけてもらう声に私はずいぶん支えられました。選手のそばで栄養サポートをする管理栄養士さんの言葉には、サプリメントをサポートしてもらうのと同じくらい、時にはそれ以上の力があると思います。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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