対談連載:トップランナーであり続けるために

29歳、プロアスリートを支えるもの 初山翔(自転車競技)×福島千里(陸上競技)

高樹ミナ
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提供:明治

責任が伴うプロは「覚悟が違う」

今季プロ転向したことで、意識が大きく変わったという福島は語る 【水上俊介】

――年齢とともにコンディショニングも変わってきていると思いますが、どう感じていますか?

初山:今シーズン終盤は10月のジャパンカップで山岳賞を取ることができて、コンディションはなかなか良い状態です。ただ、やはり海外遠征となると時差もあるし、望むような食事が摂れないことも珍しくないので、不可能なことは割り切って、栄養面は不足する分をプロテインなどサプリメントを活用しつつ、睡眠もできるだけ規則正しくとって、生活のリズムを整えるようにしています。その一方であまり固執しすぎるとストレスになってしまうこともあるので、そうならない程度に意識しているという感じです。

福島:私はほぼ毎日練習があるので、けがをしないよう気をつけています。やはり継続してトレーニングができることが絶対に大事だと思います。あと、私も初山さんと同じでパワーをつけるために体を大きくしたいし、疲労対策もしたいので、食事ももちろんですが、数種類のザバスのプロテインやアミノ酸を目的と状況に応じて使い分けています。プロテインを摂ることも練習の一部になっています。

――プロとして長く競技を続けるために意識しているのはどんなことですか?

初山:陸上競技の世界も同じだと思いますが、自転車競技もかなりプロとしての活動はシビアです。チームで動いていても評価されるのは一人一人なんですね。契約も基本的に1年ごとですし。レースも年間50〜100レースを走るので、一年中レースをしていると「本当に孤独だな」と感じることもあります。ただ、日本で自転車競技はマイナースポーツで、自転車だけで食べていける人って極めて少ないじゃないですか。その中に僕は曲がりなりにも入れていて、自転車をやっていない自分はもう想像できない。もちろん長い人生を考えれば自転車だけが全てではないとは思いますが、今はとにかく目の前のレースに集中して、この世界でやれるところまでやってやろうという気持ちで競技に臨んでいます。もちろん競技を続けていく上で、常に上をめざしたいので、プラスになることはすべてチャレンジしたいとも思っています。

福島:年間にそんなにレースがあるんですね。私は10レース出るか出ないかです。陸上競技の場合はほとんどが実業団選手、つまりアマチュアなのですが、競技の上では実業団選手だからプロだからというのはなく、どの選手も間違いなく一生懸命やっていて、より速く走るため、より高く跳ぶため、より遠くへ投げるためにやることはあまり変わりません。ただ、プロになれば責任が大きく伴いますから覚悟が違います。また目標達成までのプロセスも大事になってくるという意識も違いますよね。プロに転向した今、これまで以上にたくさんの人に支えられて、より頑張るモチベーションになっていますし、感謝の気持ちでいっぱいです。

来年拠点をヨーロッパに移す初山。世界の高みを目指して挑戦を続けていく 【水上俊介】

――最後に今後の抱負を聞かせてください。

初山:来年はチームを移籍して活動拠点がヨーロッパになり、大きく環境が変わります。プロの自転車選手になりたいと思った高校生の時からずっと憧れていた、ヨーロッパチームのプロ選手として世界水準に近づけるよう頑張りたいですし、そこでの活躍が2020年に控えた東京五輪にもつながっていくんじゃないかと思っています。自分のパフォーマンスはまだまだ上がっている感触を得ていますので、この調子で勢いをつけていきたいです。

福島:私も2020年東京五輪に向けて最大のパフォーマンスを発揮していきたいです。あとはやはり陸上競技をもっと広めたいですね。今は男子短距離の選手たちがすごく活躍していて、近年にない盛り上がりを見せていますが、自分も若い世代の女子選手の底上げに役に立てればと思いますし、成績とはまた違った形でも陸上競技の魅力を伝えていけたらいいなと思います。

対談を終えて

■初山翔
 尊敬し、憧れていた福島選手との対談で、とても緊張していたのですが、福島選手のほうが緊張している感じが意外でした。100メートルという11秒ほどで終わる超スピード競技のトップ選手なので、よほど緊張感に対する免疫があるのだろうと考えていたんです。そんな緊張感の中でも的確で、こちらが「ハッ」とさせられるような鋭い回答を下さる福島選手の集中力の高さをとても感じました。自転車ロードレースも長距離スポーツとはいえ、時折、爆発的なパワーと集中力が求められます。特に厳しいレースでは集中力が勝負を決めるといっても過言ではないので、自分もぜひとも物にしたいと思います。

 印象に残ったのは、福島選手の言葉の中で感じた「プロとしての覚悟」です。自分の方が何年も前からプロという立場で競技を行っていますが、チームで動いている自分たちとはまた違った、プロとしての責任や想いを持っているのかなと思いました。自分も覚悟を持って競技生活を送っていますが、違う競技でのプロとしての覚悟を感じることができたのもとても刺激になりました。また、お話に出てきた支えてくれる周りの方々との強い信頼関係、福島選手の人を引きつける力も魅力的で強く印象に残っています。

■福島千里
 次の日にレースを控えているとお聞きしましたが、レース前にもかかわらず、初山選手は爽やかな感じでイベントや取材に参加していました。「競技によって、レースもいろいろありますから」とおっしゃっていましたが、そのようなところもプロだなと感じました。また、ロードバイクの乗り方を教えてくださったり、私のコメントに対してフォローしていただいたりと、とても優しい印象を受けました。

 初山選手との対談で印象に残ったのは、自転車競技は陸上競技と比べ物にならないくらい、1年を通してレースがたくさんあること。また、数々のレースがある中で、ピークを作り出していくことがすごいなと思いました。「ロードのトレーニングは長くつらい練習」という初山選手のお話の中で、何度も“爽快感!”という言葉が出てくることに驚きました。私は練習では達成感はあっても、爽快感はとても感じられません……。異なる競技ですが、世界を目指して戦う同じ年のアスリートとして、たくさんの刺激をいただきましたし、初山選手の芯の強さを感じました。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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