豊田合成・イゴールからバレー界へ提言 「日本の選手たちはハングリーさがない」

田中夕子

リーグのレベルは上がったけれど……

イゴールによると、「リーグのレベルは上がったけれど、日本人選手のレベルは上がっているとは言い難い」という 【写真:坂本清】

 日本で迎えた6度目のシーズン。来日当初と比べ、今は「間違いなくリーグのレベルは上がった」とイゴールは言う。

 その理由の1つがJTやサントリー、パナソニックや豊田合成など複数のチームが外国人監督やコーチを招へいし、戦術や戦略面で格段の進歩を遂げたこと。今季はプレミアリーグで7チームが外国人指導者を擁し、荻野正二監督(サントリー)や小林敦監督(東レ)、真保鋼一郎監督(堺ブレイザーズ)など、海外でコーチングを学んだ監督も多い。これまでの日本の常識だけでなく、海外でプロとして活動する指導者から学ぶことが、Vリーグにも多く生かされているのは間違いない。

 一方で、リーグのレベルが向上しているように、日本人選手のレベルも向上しているのか。そんな質問を向けると、「答えにはならないかもしれないが、言いたいことがある」とイゴールの話は熱を帯びた。

イゴールから見て、日本の選手たちはハングリーさが足りないと感じるようだ 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

イゴール 日本人選手のレベル、うーん、上がっているとは言い難いね。その理由はなぜかという答えからは外れてしまうかもしれないが、1つ思うのは、大学を卒業した選手がチームを選ぶ時に、多くの選手がバレーボールを終えた後のキャリアを考えて選んでいるのではないかということ。自分自身のバレーボール選手としてのキャリアを考えてチームを選ぶならば、もっと「出場できるチーム」や、「このチーム、このコーチのバレーが好きだ」という発想が最初に来るはずなのに、引退した後のことを考えて選んでしまう。

 日本のシステムの中では、それは間違った考えではないのかもしれないけれど、若い選手たちにはもう少し、そのチームでいかに自分のバレーボールを進化させられるか、本当に活躍できるか、そもそも試合に出るチャンスがどれほどあるのか。それを考えて選んでほしい。

 たとえば1つのチームにたくさんのいい選手が集まっていて、ベンチを見ると、可能性や力を持った選手たちが試合に出られず、ただ試合を見ているだけで2〜3年が過ぎてしまう。これは本当にもったいない。極端なことを言えば、ベンチにいる選手に外国人選手を1人プラスしたら、それだけでリーグの中で他のチームと対等に戦える力を持ったチームもあるはずです。

 これはナショナルチームの将来にもよくない。もっと若い選手たちがVリーグでプレーして、ナショナルチームに行ければもっと素晴らしいナショナルチームになるのではないでしょうか。

 私の経験を言わせてもらうと、私は19歳でクロアチアを出てイタリアへ行き12年間、2つのトップクラブでプレーしました。それは私だけではなく、たくさんの若い選手がそうです。それはチャレンジで、毎年契約を勝ち取るために毎日が戦いでした。でも日本の選手はどうか。1つのクラブに入ってしまえばそれっきり。このシステムでプレーして、引退後のセカンドキャリアにつなげていく。その契約を勝ち取るために必死で頑張る、というハングリーさは残念ながら日本の選手には見られません。

 もちろん日本のシステムが悪いというわけではないが、大学を卒業して22歳で本格的にバレーボール選手としてのキャリアをスタートさせるというのは、遅すぎます。世界では22歳の選手は若手ではなく、成熟した1人前の選手。そうなるために毎日戦っているし、私もそうやって頑張ってきた。そして今、日本にいる多くのプロ選手たちもそれは同じです。

 だから、日本の若い選手たちには私たちのバレーボールにすべてを捧げている姿を見てほしい。2時間の練習、コートの中でどんなプレーをしているか、ということも大切だけれど、そこにどのような準備をしているのか。どうやってリカバリーをしてどうやってリフレッシュして、何を食べているか。それを若い選手には見て、学んでほしいし、きっと日本の多くの選手が何かを感じてくれていると信じています。

トップ選手たちの何を見て、何を学ぶか

トップ選手の何を見て、何を学ぶか。それがリーグ全体や個人のレベルアップにもつながる 【田中夕子】

 日本のバレーボール選手、そしてバレーボール界へ向けたイゴールの提言――。

 同じポジションで「どんな場面でも必ず点を取るイゴールは『ザ・オポジット』というべき選手で、尊敬している」という清水邦広はこう言う。

「世界のトッププレーヤーが日本に来てくれるのは、すごく大きな財産になると思います。でもだからといって、外国人の良し悪しで試合が決まってしまうというのでは面白くない。イゴールだけがすごいから豊田合成が強いわけではなく、全員の力で戦っているチームだから強いし、勝ちたいと思うんです。

 それがリーグ全体や個人のレベルアップにもつながるし、やっぱり見ている人にも、イゴールのようなすごい外国人選手にも『日本人選手のレベルも上がったな』と思われるようになりたいですよね」

 世界のトップ選手を見上げるばかりでなく、彼らの何を見て、何を学ぶか。1stレグを終えたV・プレミアリーグ、勝敗の行方もさることながら、さまざまな変化の過程に注目するのも楽しみであり、1つの大きな見どころになるのではないだろうか。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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