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Vリーグ、男子の躍進を支えた外国人監督
通訳が語る指導方針とチームの変化

トップ3はすべて外国人監督

JTをファイナルに導いたヴコヴィッチ監督。男子のトップ3を指揮するのはすべて外国人監督だ
JTをファイナルに導いたヴコヴィッチ監督。男子のトップ3を指揮するのはすべて外国人監督だ【写真:アフロスポーツ】

 いよいよ4月5日の優勝決定戦を残すのみとなった、V・プレミアリーグ男子大会。決勝で対戦するJTサンダーズとサントリーサンバーズの勝敗の行方もさることながら、外国人監督が率いるチームが決勝で対峙(たいじ)するのも史上初のこと。加えて、ファイナル3で敗退はしたが、今季は3位と大きく順位を上げた豊田合成トレフェルサも含め、トップ3を指揮するのはすべて外国人監督だ。


 一度開かれようとしたものの、すぐに閉じられた重い扉が、Vリーグに舞台を変えて、ようやく開かれようとしている。


 2013年、史上初の外国人監督として男子バレーボール日本代表の指揮を執ったゲーリー・サトウ氏は、世界選手権の出場権を逸したことや、ワールドグランドチャンピオンズカップでの成績不振を理由にわずか1年で解任された。練習内容や発想も大きく変わり、これからという期待感を抱く選手や関係者も少なくなかったが、コミュニケーション面で難があったこと、ゲーリー監督の掲げるバレーボールスタイルは日本を強くするための方法としてはふさわしくない、というのが解任に至った理由だった。


 しかし、それからわずか2年。「コミュニケーションに難がある」「日本には合わない」と烙印(らくいん)を押された外国人監督は、代表チームとVリーグという違いはあるが、チームの成績を向上させ、選手の意識を大きく変えるなど、確かな成果を示している。


 実績も経験も十分なプロの指揮官とはいえ、彼らは決して魔法使いではない。なかなか勝てずにいたチームを、優勝争いをするまでのチームに引き上げる指導力と統率力。共に今季2シーズン目を迎えたJTのヴェセリン・ヴコヴィッチ監督、そして今季は3位となった豊田合成のクリスティアンソン・アンディッシュ監督の通訳を務める2人が、躍進の背景を明かす。

バレー界には通訳のできる人材が少ない

 ヴコヴィッチ監督の就任とともに、通訳として採用された亀渕雅史氏は大学までサッカー経験があるものの、バレーボールに関わったことは一度もない。


「今の現役選手で知っていた男子バレーボールの選手と言えば(越川)優とゴッツ(石島雄介)とゴリ(清水邦弘)ぐらい。細かいルールもまったく分かっていませんでした」


 日本に来ること自体が初めてだったヴコヴィッチ監督の生活をサポートすることだけでなく、空いた時間はバレーボールの勉強に費やした。ブレイクやサイドアウト、ローテーションの違いやポジションの違い。亀渕氏が理解するまで細かく教えてくれたのは、ほかならぬヴコヴィッチ監督だったと言う。


 そもそも男女プレミアリーグの16チームを見ても、通訳として活躍するのは圧倒的に女性が多い。選手だけでなく、その家族のケアやサポートも仕事に含まれることを考えれば、細かな心配りができるという点で女性スタッフが重宝されるのかもしれない。だが、ひもといてみると、実はバレーボールに精通し、なおかつ語学も堪能でチームの通訳として活躍できる人材が少ない、というのが実情なのだと亀渕氏は言う。


「サッカーや野球は、どれほど下部のリーグであっても米国や欧州でプレーした経験を持つ人、クラブのフロント業務を学んだ人がたくさんいる。その人たちが日本に戻ってきて、チームの通訳やフロントスタッフとして活躍しています。でもバレーボールは、と考えると、そもそも海外リーグに挑戦する選手、スタッフの数も限られています。『卒業したから海外へ渡ろう』という発想自体が少数なので、バレーに精通していて、なおかつ語学も堪能という人材が少ないことも問題ではないかと感じます」


 海外でプレーするという選択をする選手は少しずつ増えてきているものの、まだまだ圧倒的に少ないのが現状だ。「世界を知る」人材不足、というのがVリーグのみならず、バレーボール界に突き付けられている大きな課題であることは間違いない。

自然に同じ方向を向かせる力がある

ヴコヴィッチ監督を「自然に同じ方向を向かせる力がある」と評した町野
ヴコヴィッチ監督を「自然に同じ方向を向かせる力がある」と評した町野【写真:アフロスポーツ】

 サッカー経験はあるものの、バレーボールに関しては「練習内容すら分からなかった」と言う亀渕氏は、高校や大学を含めた日本の指導者に対しても「分からない方だらけ」と苦笑いを浮かべるが、ヴコヴィッチ監督というフィルターを通して見ると、他チームや合宿で来訪する大学の監督と比べて、さまざまな違いを感じると言う。


 ヴコヴィッチ監督は日頃の練習中も、気になるところがあればどんな状況でもすぐに練習を止め、全体や気になる選手に向けて声をかける。特に小さなミスにはこだわる。たとえばゲーム形式の練習時に、トスミスをして相手コートにボールが流れたり、要所で何も工夫せずに打ったスパイクがアウトやネットにかかる。すると、「その1本はセッターのミスでもあり、打てなかったらアタッカーのミスにもなる。その重なったミスが試合の流れを変えるポイントになるのが分からないのか?」と怒りをあらわにする。


 それだけならば日本の指導者も同様に思えるが、集中力を欠いた練習をしていると感じたら、ただ怒鳴るのではなく、時折ブラックジョークを交えながら、笑みを浮かべてきつい一言を浴びせる。


「こんなに朝早くからボールに触って、そんな練習しかできないなら時間がもったいない。練習なんてやめて、みんなでコーヒーでも飲みに行ったほうがいいんじゃないか」


 一方的に監督だけが発信するのではなく、1対1で話す時間を設け、自分が伝えたいことを述べた後、選手に「何かあるか? どう思う?」と必ず問う。最初は監督の指導に疑心暗鬼だったと言う選手たちも、単に「ミスを減らせ」と言うだけでなく、「なぜこの場面でミスを減らさなければならないのか」と説かれ、それを実践することで結果も変われば、当然ながら意識の変化も芽生える。


 JT在籍11年目のベテラン、町野仁志はこう言う。


「無理に『みんなこっちを向け』と強制するのではなく、自然に同じ方向を向かせる力があるから、チームが同じ目標を持って戦えるようになったんだと思うし、自分自身も『やるべきことをやれば勝てる』と今までとは違う自信を持てるようになりました」

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

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