霜田正浩、ベルギーで学びを得る日々 「指導者もリスク覚悟でチャレンジを」
日本人指導者が直面する「ライセンス」の壁
日本人指導者を悩ませるのが「ライセンス」の壁。日本でS級を持っていても、欧州で監督をすることはできない 【六川則夫】
ベルギーの場合、トップ以外のカテゴリーはパートタイムコーチが多いのが現状です。ウチのセカンドチームの監督も、学校の先生と掛け持ちしながら指導をしています。彼とは良好な関係を構築していて、1日のセッションのうち、毎日1〜2つのセッションを任せてもらっています。JFA時代の経験やノウハウを生かしてビデオを編集して見せたり、メニューに工夫を凝らしたりしていますが、やりがいを感じます。8年ぶりの現場はやはり新鮮ですね。
僕は英語を使って指導していますが、意思疎通は今のところ問題ありません。ただ、選手たちとのコミュニケーションをもっと密に取りたいので、毎週1回、英語学校に通って4時間のディスカッションに励んでいます。ザックとはイタリア語、アギーレとはスペイン語で会話してきましたが、面と向かって意見をぶつけ合うのは外国人にとって当然のこと。僕が見ている選手たちも意見してきますし、自分のミスをなかなか認めようとしないこともある。そんな彼らに、なぜそうなったのかを理解させ、改善を促すというディスカッションを連日のように行っています。その作業が欧州で指導する醍醐味(だいごみ)かもしれません。日本の場合、指導者と選手がディスカッションをするという文化はあまりないですが、こちらは考えて話すことがセットになっている。そういう文化の違いがサッカーの指導現場、選手たちの能動的なパフォーマンスによく表れていると思います。
日本人が海外で指導者をしようと思うなら、日本語を使わずに指導することに慣れなければいけないと思います。日本に来る外国人指導者に通訳を付けるのは普通ですが、それは日本だけの特別な状況。やはり人間相手の仕事ですから、ダイレクトにコミュニケーションを取るのが一番です。今はこれだけ日本の選手が欧州に挑戦しているのだから、指導者もリスクを覚悟でチャレンジしないと、日本サッカー界は変わらない。そういう指導者が増えてほしいですね。
ただ、監督とコーチというのは圧倒的に立場が違います。JFAのS級(ライセンス)とUEFA(欧州サッカー連盟)のプロライセンスは互換性がないため、私は欧州では監督になれません。その問題は日本人指導者の大きなハードルで、同じ悩みを持っている藤田俊哉(リーズ強化担当)とも話しましたが、僕らが欧州でUEFAプロライセンスを取るのも容易なことではない。現在、欧州でプレーしていて語学力のある永嗣(川島=メス)、長谷部(誠=フランクフルト)、麻也(吉田=サウサンプトン)、佑都(長友=インテル)といった選手たちなら、可能性があると思います。日本人指導者が直面する壁を破る人間が出てくることも、日本サッカー発展の重要テーマと言えるでしょう。
日本人選手はベルギーでも十分通用する
「久保(写真)や森岡などが活躍しているように、日本人選手はベルギーでも十分通用する」と霜田は話す 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】
ベルギーはルカクやエデン・アザール(チェルシー)といったトップ選手が国外に出ているので、国内リーグのレベルは5大リーグに比べて若干劣るのは事実で、選手個々の技術もそこまで高くありません。ですが、移民が多く、アフリカ系などの黒人選手が多いこともあって、フィジカル的な激しさと当たりの強さは際立っています。ザックが言う「インテンシティー」も、ヴァイッドが言う「デュエル(1対1の競り合い)」も当たり前。その前提で何ができるかを指導者も監督も追求しています。「点を取る、取られない」といった“サッカーの本質”に強くこだわっているから、ペナルティーエリアの40×16メートルでのプレーを突き詰めている。ザックもアギーレも、ヴァイッドもそうだった。そこがサッカーの真実だということを再確認するいい機会になっています。
だからこそ、こちらの指導者はポゼッションだけにこだわることもないし、ゴールから逆算したプレーにフォーカスしている。ウチのトップ(チーム)のヨナス・デ・ロエック監督も、練習ではポゼッションのトレーニングもしますが、試合では常にゴールを目指して攻撃を構築している。そして、どんどんゴールに向かおうとする。結果としてサイドアタックからのクロスという得点パターンが多くなりますが、ゴール前が堅いなら外から攻めましょう、という基本に従っているだけ。そういうシンプルな考え方を日本人も理解し、取り入れていく必要性があると感じています。
――ベルギーでプレーする日本人選手たちをどう見ていますか?
ベルギーリーグには外国人枠がなく、国籍差別もないため、日本人であろうがアフリカ出身であろうが、全く問題になりません。国自体が移民を大量に受け入れているので、非常に多様性がある。そこは日本人にとってもアドバンテージでしょう。
今季のベルギー1部で久保裕也(ゲント)や森岡(亮太=ワースランド・ベフェレン)が活躍しているように、能力的に日本人は十分できると思います。あとはフィジカルコンタクトに対する順応性を身に付け、ファウルに対する概念を変えることが求められます。久保はスイス、森岡はポーランドで日本との違いを肌で感じ、対応力を身に付けてきた経験がありますが、誰もが同じようにできるとは限らない。そこは強調しておきたい点です。
――霜田さんはSTVVでの経験を、今後にどう生かしていくお考えですか?
今回のSTVVを含め、コーチとして選手の成長をサポートしたり、監督の補佐をすることは随分と経験してきたので、次はどこかで自分自身が指揮を執ることにチャレンジしたいという強い意欲を持っています。自分は強化部門やダイレクター的な仕事にいったん区切りをつけて現場に戻ったわけですが、両方の視点を持って指導できるのは大きな強みになると感じています。監督ができるのなら、欧州や日本でなくても、東南アジア、南米でも構いません。選手として3年間、ブラジルでプレーしましたし、さまざまな監督と接し、ベルギーの指導現場でも働いた経験を、ぜひともピッチの上で還元したいと願っています。