具志堅の愛弟子・比嘉大吾が初防衛 14戦連続KO王者の狙いは「井岡さん」

船橋真二郎

偶然目にした具志堅会長のボクシング

偶然目にした具志堅会長の現役時代の試合映像。それが、ボクシングへの道に進むきっかけとなった 【赤坂直人/スポーツナビ】

 そして大胆に名前を口にしたWBA世界フライ級王者に対しては特別な思い入れがある。
「憧れのチャンピオンだし、井岡さんの試合をやってなかったら、(具志堅用高)会長の映像を見ることはなかったし、ボクシングをやろうと思ってなかったんで」

 比嘉が言うのは2011年2月11日。井岡が5回TKO勝ちでオーレイドン・シスサマーチャイ(タイ)を下し、1階級目のベルト、WBC世界ミニマム級王座を奪取した一戦。中継が早く終わり、テレビで流されたのが具志堅会長の現役時代のKOダイジェスト映像だった。比嘉はちょうど高校受験の最中。高校でも小・中学校と続けてきた野球部に入ろうと考えていたが、故郷のヒーロー・具志堅会長の雄姿を見て、急激な方向転換。沖縄・宮古工業高校でボクシングを始めることになった。

 具志堅会長と同じ21歳で世界王者に。そんな夢を現実にし、次は偶然にも同じ階級にいる井岡と統一戦ができたら。純な思いが根底にはある。

 だが、フライ級の比嘉の時間は限られている。今回は試合の1カ月半前から計画的に減量を進めた。従来より長い期間をかけて食事制限し、「前回のように死ぬっていうほどのきつさはなかった」が、今度は計量後から試合までのリカバリーがうまくいかなかった。

 試合前のウオーミングアップで汗が出ず、「1ラウンドが終わって、息が上がってました」と比嘉。「パンチが走っていなかった」と野木トレーナーが表現したように、比嘉のパンチには体重が乗らず、いつもより軽い印象を受けたのは確か。
「比嘉大吾の能力を10として、その10を出していたら2ラウンドで終わっていた」
 野木トレーナーは悔しがったが、試合前に判定も覚悟した体調で「しっかり試合を決めきるのは非凡」とも。本来の力を発揮させるため、また次に向けて、調整方法を試行錯誤する。

広がる夢……井岡戦、沖縄凱旋プラン

次回の防衛戦は“沖縄凱旋”で行われる可能性も。広がる未来へ、比嘉はきらきら輝く目を向けた 【赤坂直人/スポーツナビ】

 具志堅会長は愛弟子が熱望する井岡との統一戦を視野に入れつつ、「指名試合の期限が5月か6月なら、プロ野球のキャンプで人が集まる1月、2月に沖縄で防衛戦をしたい」と次戦のプランを明かした。沖縄凱旋もまた比嘉の夢のひとつ。

 さらに井上尚弥(大橋)の米国デビュー戦をはじめ、『SUPER FLY』と銘打たれ、強豪が一堂に会した興行が今年9月にロサンゼルスで行われるなど、軽量級では異例と言える盛り上がりを見せている1階級上のスーパーフライ級の話を向ければ、「今、熱いですもんね。食い込みたいですよ」と目をきらきら輝かせた。

 描く夢は無限大。ボクシングスタイルといい、愛嬌たっぷりの「キャラクター」といい、スター性を感じさせる比嘉の未来は、着実に広がっている。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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