“初防衛”の鬼門に挑む比嘉と拳四朗 新参王者の王座陥落を止められるか!?

船橋真二郎

22日、「ベルトは獲るより守るほうが難しい」と言われる鬼門の初防衛戦に臨む比嘉(右)と拳四朗 【写真は共同】

 ボクシングの世界では「ベルトは獲るより守るほうが難しい」と言われる。その格言の重さを実感させられているのが今年、初防衛戦に臨んだ日本人世界王者かもしれない。

 8月27日、山中竜也(真正)との日本人対決に判定で敗れたWBO世界ミニマム級王者の福原辰弥(本田フィットネス)。9月3日、ダニエル・ローマン(米国)の前に9回TKO負けを喫したWBA世界スーパーバンタム級王者の久保隼(真正)。さらに9月13日、岩佐亮佑(セレス)に6回でストップ負けしたIBF世界スーパーバンタム級王者の小國以載(角海老宝石)。2階級目となるベルトの初防衛に成功したWBO世界ライトフライ級王者の田中恒成(畑中)は別として、新参王者はことごとく王座を明け渡す結果に終わっているのだ。

 雪辱を期す村田諒太(帝拳)とWBA世界ミドル級王者アッサン・エンダム(フランス)の因縁のダイレクトリターンマッチが行われる22日の東京・両国国技館。そのアンダーカードで2人の日本人王者が初防衛戦のハードルに挑む。そろって新王者となった5月20日の東京・有明コロシアムに続き、村田と共演することになるWBC世界フライ級王者の比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ)とWBC世界ライトフライ級王者の拳四朗(BMB)。注目を集める舞台に再び立ち、今度はそろって鬼門突破となるか。

具志堅会長からの言葉を胸に臨む比嘉

ここまで13戦全勝全KO勝ちとパーフェクトレコードを続けている比嘉。日本記録もすでに視野に入ってきた 【写真は共同】

 13連続防衛の金字塔への第1歩も苦闘だった――。

 30年前、具志堅用高会長の初防衛戦は、相手にダウンを奪われた上に、左目上をカットし流血。その後、右目尻も切り、ラウンドが進むにつれ、両目の周囲が腫れ上がるハンデを負うが、強気に打ち合った末に2−1の判定勝ち。初防衛を乗り越えて、本物のチャンピオンになる」という具志堅会長は、自身の経験も踏まえ、「挑戦者のつもりで戦え」と愛弟子に助言を送る。

 尊敬してやまない故郷・沖縄のヒーローの言葉を受け、心境は何も変わらないという比嘉は「倒すということでは、挑戦者のときもチャンピオンになってからも変わらない。倒して勝ちます」と意気込む。もとより比嘉の売りは攻撃力、そして沖縄出身の歴代王者の系譜に連なる熱いハート。計6度ものダウンを奪った派手な戴冠劇は同時に日本史上初、13戦全勝全KO勝ちというパーフェクトレコード王者の誕生でもあった。具志堅会長と同じ21歳で世界王者になる目標を成し遂げた比嘉が、次に狙いを定めるのが沖縄の先輩王者でもある浜田剛史氏らが持つ連続KO記録15の更新である。

ハードワークが自信に繋がっている比嘉(右)。具志堅会長(左)も苦しんだ初防衛戦を突破できるか 【船橋真二郎】

「(身長が)高くて、キレイなボクシングをする。(間合いを)詰めたらガードを固くするので崩しにくい」

 比嘉が印象を語るように戦いの焦点ははっきりしている。挑戦者5位のトマ・マソン(フランス)は身長、リーチとも比嘉を上回り、この階級では長身の部類に入るボクサータイプ。だからといってサイドに忙しく動き回るわけではなく、どう捕まえるかというより、間合いとガードをいかに崩し、倒しきることができるか。

 世界的には無名だが、フランス王座、ヨーロッパ王座を争いながら経験を積み、世界初挑戦のチャンスをうかがってきたマソン。ディフェンスに自信を持ち、21戦(17勝5KO3敗1分)のプロキャリアでダウン経験はないという。「全KOはすごいこと。ただ、今回もKOできるとは限らない」と王者をけん制するが「中に入ったら、絶対に自分のもの」という比嘉の強じんな下半身から生み出されるダッシュ力をもってすれば、得意のインファイトに持ち込むことは、そう難しくないと思える。

 ただし、プロ転向当初から指導してきた野木丈司トレーナーが「ボクシングもフィジカルも挑戦のときよりレベルが上がっている」という比嘉がイメージするのは、もう一段上の勝利。野木トレーナーの「今回はジャブでも差し勝ってくれるんじゃないかと思っている」の期待に「相手のほうがリーチは長い、身長がデカいから、そこ(ロングレンジ)は相手の距離というのはイヤなんで。その距離でも絶対に勝たないと」と比嘉もうなずく。

 目指す完全勝利の14連続KOに向け、最大の敵は恐らく自分になる。世界挑戦直前、想像以上のプレッシャー、減量の不安から、比嘉はパニックに陥りかけた。比嘉が「地獄」と表現するフィジカルトレーニングの成果もあり、鍛え上げられた肉体はすでに「フライ級の体ではない」(野木トレーナー)。前回より半月早い1カ月半前から食事制限を始め、こまめに体重を管理し、シビアに減量を進めてきた。

 絶対的な自信の源になっているハードワーク、過酷な減量。長く苦しんできた分、「挑戦者がいちばんキツイのは試合になる」と不敵に宣言した比嘉。リングを降りれば、南国の太陽のような明るい素顔を見せる22歳は、リングでは獰猛(どうもう)にKOを狙う。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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