“初防衛”の鬼門に挑む比嘉と拳四朗 新参王者の王座陥落を止められるか!?

船橋真二郎

気負いなく自然体の拳四朗

気負いなく、順調に調整を続ける拳四朗。大舞台でもリラックスできる精神力も、彼の持ち味の一つだ 【写真は共同】

「鬼門とも言われますけど、まったくそういう気負いもなく、ただ目の前の試合に向けて準備して、勝利するだけ。息子の拳四朗も特別な感情はないと思います」

 元東洋太平洋ライトヘビー級、日本ミドル級王者でもある父の寺地永(ひさし)会長が強調するように初防衛戦を目前に控えても「いつもどおり」と笑顔の拳四朗。前回と同様、地元・京都を離れ、9月下旬から本番まで東京で調整を進めるが「リラックスして練習できていると思います」。この力みのない自然体こそ、ひとつの武器かもしれない。

 挑戦者に迎えるのは、かつて自らが保持していたベルト奪回に闘志を見せる1位のペドロ・ゲバラ(メキシコ)。2014年12月の王座決定戦で八重樫東(大橋)を左ボディで沈め、東京で初の王座奪取。2度防衛後、15年11月に再び来日。仙台で木村悠(帝拳=引退)の挑戦を受け、際どい2−1の判定でベルトを失った。

相手は歴戦を潜り抜けてきた元王者。拳四朗としてはライトフライでの長期政権を目指すが、初防衛戦から高い壁が待っている 【船橋真二郎】

 前王者のガニガン・ロペス(メキシコ)のケガなどで王座返り咲きの機会が決まりかけては流れ、無冠になって2年近い歳月を過ごしたゲバラは「もうチャンスは来ないんじゃないかと考えたこともあった」という。それだけに「こうしてチャンスが来たので、モチベーションは最高潮」と日本でもおなじみの実力者の表情は明るい。

 拳四朗の王座戴冠戦は老かいなサウスポーのロペスに苦しめられ、きん差2−0の判定勝ち。今回は「もっと圧勝したい」とアピールを狙うが「無理には倒しにいかない。勝てれば、判定でもいい」と拳四朗に必要以上の気負いはない。「ジャブが当たれば、自分の距離になる」と絶対の自信を持つ左でペースを握り、「カウンターで倒せればベスト」とイメージする。9月上旬には、米国ロサンゼルスでスパーリング合宿を敢行。リオ五輪ベスト16のメキシコ代表をはじめ、メキシコ系ボクサーと5日間、毎日のように計40ラウンド手合わせし、ゲバラ戦に向けて貴重な経験を積んだ。

 わずか10戦(10勝5KO)で王者となった拳四朗に敬意を表しつつ、ロぺス戦は「引き分けに見えた」とゲバラ。「判定になっても、ジャッジを納得させる明確な勝ち方をする」と攻撃的な姿勢が必要としたが、元来が相手の出方に応じてクレバーに戦うボクサー。寺地会長が「ジャブの差し合いが、ひとつの分岐点になる」と予想するように立ち上がりの主導権争いがポイントになるだろう。

 ただし、ロペス戦でも見せたように劣勢なら打ち合いも辞さず、ベビーフェイスの奥に強気をひそませる拳四朗。千載一遇のチャンスに決意を固めているゲバラ。どちらが先にペースをつかんだとしても、いずれ展開は激しく動き出し、「お互いにとって、タフな試合になるのは確か」(寺地会長)。ライトフライ級で長期政権を目指し、ここが正念場となる。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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