B1昇格へ、奈良が行ったクラブ改革 元代表HCを招聘「選手を成長させていく」

カワサキマサシ

日本の成長に「特別な思いがある」

10年以上にわたって日本バスケ界に携わったジェリコHC(中央)は、日本の成長に「特別な思いがある」とコメント(写真は06年) 【写真は共同】

 03年の代表HC就任にはじまり、足掛け10年以上にわたって日本のバスケットボール界に携わってきた。昨シーズンはオフに充て、どこのチームにも所属していなかったが、日本の情報は随時、得ていたという。代表HC時代から日本が正しい道に進むため、あえて苦言を呈してきた者として、Bリーグが誕生した日本バスケットボール界の新しい波をどう感じたのか。

「最初に日本に来るときは、エージェントや周りの人から『なぜ、日本に行くのか』など、ネガティブな声も多く上がりました。代表チームのHCを務め、長く日本のバスケットボールにかかわってきた人間として、こうやって日本が成長し、変わってきていることには特別な思いがあります」

 その成長の一端を感じたのは、今年8月。レバノンで行われたアジアカップで、日本代表の戦いぶりを目にしたときのことだった。

「大事なところで得点が入らないなど、まだ至らない部分はありましたが、全体的に良いバスケットボールをしていました。代表チームは世界に対して日本がどのレベルにいるのかを測る、ひとつのものさしです。私が代表チームに成長を感じたということは、日本のバスケットボール全体のレベルが底上げされたということです」

日本に必要な大型ガードの発掘と育成

 20年には、東京五輪が控えている。これから日本がさらに成長していくために必要なことを、元代表HCが提言する。

「ユース年代の育成プログラムは、まだ弱いと言わざるを得ません。若い世代からサイズのある人材を発掘することと、それを育てていくことに関しては、世界と比較すると遅れています。それにスキルの部分では、まだまだ教えなければならないことがある。プロのレベルだけで考えるのではなく、もっと早い段階からスキルをレベルアップさせることが必要。これは私が日本のバスケットボールを見続けてきて、ずっと言い続けていることです。一朝一夕に改善されないかもしれませんが、問題意識を持ち続けなければいけません」

 続けて日本人選手が世界で戦う可能性について、興味深い話をしてくれた。

「今後、日本人からNBA選手が誕生するとすれば、サイズがある1番(ポイントガード)か、2番(シューティングガード)の選手でしょう。例を挙げれば比江島慎選手(シーホース三河)は1番ですが、190センチを超えている。川村卓也選手(横浜ビー・コルセアーズ)も、190センチオーバーの2番の選手。そういうスペックを持った日本人選手であれば、世界で通用する可能性がある。選手の発掘や育成については、そのことにも着目していくべきだと思います」

最初のステップは「昨季より良いチームにする」

ジェリコHCは「来年の春に、どの位置にいるかを見ていてほしい」と意気込みを語った 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 代表チームの成長と同時に、そこに選手を供給するクラブの歩みも前に進んでいると言う。

「クラブに関しても、Bリーグになったことで全体が成長していると感じます。以前はそれぞれ違う方向を見ていた2つのリーグが1つになって、日本のバスケットボール界は正しい方向に進みました。B1〜3までカテゴリーがあって、それぞれに入れ替えがあるシステムも、良いものだと思います。

 ただし私には、単純にチームの強さでカテゴリーを区切られている印象はありません。われわれは、ほかの強豪チームとも戦える。現状の私たちの問題として挙げられているのは、アリーナの収容人数が足りていないこと。そこはクラブとして、行政も含めてクリアしていかないといけない課題です」

 日本のクラブチームを率いるのは、奈良が4チーム目。目前に迫った、来るシーズンへの意気込みを語る。

「まずは、昨季より良いチームにする。それが最初のステップです。昨季の奈良は24勝(36敗)でしたが、それを上回って30以上は必ず勝つ。日本でのコーチ経験を生かして、今季は今までよりも良いゲームをお見せできることを約束します」

 普段は笑顔を交えながら、どんな質問にも快く応じる紳士。しかし試合が始まると、ベンチから立ち上がって激しく選手に指示を送り、感情をあらわにしてチームの最前線に立って戦う熱い指揮官へと変貌する。ジェリコHCが最後に言った次の言葉に、そんな闘将の姿が垣間見えた。

「われわれは予算が潤沢にあるわけでなく、リーグでベストなチームではないかもしれません。しかし最初から負けるつもりは、まったくない。日ごとに成長していくわれわれが来年の春に、リーグのなかでどの位置にいるかを見ていてほしい」

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著者プロフィール

大阪府大阪市出身。1990年代から関西で出版社の編集部員と並行してフリーライターとして活動し、現在に至る。現在は関西のスポーツを中心に、取材・執筆活動を行う。

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