意外性なきターンオーバー同士の対戦 天皇杯漫遊記2017 長野対磐田

宇都宮徹壱

天皇杯よりもリーグ戦を優先せざるを得ない事情

長野の浅野監督。天皇杯へのこだわりを感じさせながらも、リーグ戦優先を決断した 【宇都宮徹壱】

「(前半は)前線の選手の連動性、流動性を生み出す動きができていなかった。1点取ってからは、サイドからの突破やクロスも出て、われわれのゲームはできたと思う。危険なシーンもほぼなかったし、リーグ戦に出場していた選手も(高橋)祥平以外は休ませることができた。難しいアウェー戦に勝利して帰れるのは良かったと思います」

 磐田の名波浩監督の試合後のコメントが、この試合のほぼすべてを言い表しているように感じた。磐田は3日前、エコパスタジアムで浦和レッズと接戦を演じたばかり(結果は1−1)。そして3日後には、残留に向けて後がない大宮アルディージャをホームに迎える。磐田は現在6位。さすがに優勝は厳しいだろうが、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)圏内の可能性はまだ残している。となれば、この天皇杯4回戦は「最小限の戦力で最低限の結果を出す」ことがミッションであったのは容易に想像がつく。

 一方、敗れた長野の浅野哲也監督は、悔しさと迷いが入り混じった表情で会見場に現れた。「ここまで勝ち上がってきたので、次のラウンドに進みたかった」と語りながらも、「3日後にここでリーグ戦がありますが、もう後がないので、ひとつひとつを戦っていくしかない。今日の悔しい結果をリーグ戦にぶつけていく」と言葉を続けた。こちらは指揮官の葛藤ぶりが、ひしひしと伝わってくるコメントである。「来季こそはJ2昇格」という悲願を毎年のように掲げてきたクラブは現在、首位から10ポイント差の6位に甘んじている。

 長野は11年に北信越リーグからJFLに昇格。その後、14年にJ3のオリジナルメンバーになるが、自力昇格がないまま「3部のクラブ」であり続けた。11年から13年の3シーズンは成績面で申し分なかったものの、スタジアム要件を満たせなかったために昇格を断念。その後も、J2の21位との入れ替え戦に敗れるなど不運が続き、気がつけば3部暮らしは7年目に突入した。今季から指揮を執る浅野監督にとり、J2昇格が最大のミッションであることは間違いない。それでも、天皇杯に対する思い入れもあっただろう。長野の天皇杯での最高成績が、13年の4回戦であればなおさらである。

 天皇杯の4回戦は、注目の筑波大が大宮に0−2で敗れ、J2の2クラブ(松本山雅FCと名古屋グランパス)の敗退も決まり、ベスト8はすべてJ1クラブとなった。この時期はJ1クラブのみならず、カテゴリーが下のチームにもリーグ戦を優先しなければならない事情がある。4回戦といえば、トーナメントの真ん中であり、前回大会は11月9日から12日の間に行われた。これが2カ月ほど前倒しになったことで、カップ戦の醍醐味(だいごみ)が薄まってしまっている可能性はないだろうか。今大会からの日程変更の是非は、もう少し注視した上で検証する必要がありそうだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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