戦術理解は早いが、状況解決能力が低い エスナイデルが感じた日本の特徴<後編>

小澤一郎

監督よりも、フロントの仕事が好きだった

1999年ユベントス在籍時のエスナイデル(右)。数多くの名監督の下でプレーした 【Getty Images】

――選手時代、数多くの監督の下でプレーされていますが、1人を選ぶならどの監督になりますか?

 少なくとも私の場合、私のキャリアにおいては1人を選ぶことはできません。レオ・ベーンハッカー、(マルセロ・)ビエルサ、(ホセ・アントニオ・)カマーチョ、(マルチェロ・)リッピ、(カルロ・)アンチェロッティといった偉大な監督たちから本当に多くのものを学ぶことができました。

――現役引退前から監督になることは決めていたのですか?

 いいえ、全くです。サッカー界から離れるイメージはなかったのですが、監督になるつもりはありませんでした。私はアルゼンチンにクラブを持っています。引退後は、私の故郷にあるそのクラブの経営に携わっていました。

 監督業よりもクラブ経営やチーム強化を担うフロントの仕事が好きだったのですが、ある日ミチェル(現マラガ監督)から電話をもらって指導者の道にも興味が湧きました。スペインで指導者ライセンスを取得すると、その後にヘタフェを率いたミチェルのアシスタントコーチとして現場に立つことになりました。ただ、監督業については本当に偶然のことで、引退前から計画していたことではありません。

アルゼンチン人監督は戦術面からチームを作る

――近年の欧州ではアルゼンチン人監督が数多く成功を収めています。その理由についてどうお考えですか? ブラジル人監督と比較すると明らかに数が多いのですが?

 はっきりとした理由は分かりませんが、おそらくブラジル人はあまり戦術に重きを置いていないからだと思います。ブラジルには優れた選手が多いですし、監督はそうした選手を気持ちよくプレーさせることをまず考えます。チーム作りの面で選手個人の能力に頼ることが多いと思います。

 一方、アルゼンチン人監督はより戦術的で、戦術面からチーム作りをする傾向にあります。それがアルゼンチン人監督のアドバンテージだと思います。ただ、これも1つの仮説に過ぎませんし、私が現役時代には欧州で成功を収めているアルゼンチン人監督はほとんどいませんでした。

――間違いなく言えることは、アルゼンチン人はとてもコンペティティブな国民です。

 それは間違いありません。われわれは生まれた直後から競争が求められる社会で育ちます。特にサッカー界での競争は激しいですから、生き残りをかけた競争は熾(し)烈を極めます。

――スペインで長く生活するあなたに聞いておきたいのですが、なぜ近年スペインサッカーは成功を収めているのでしょう?

 スペインという国は昔からいい選手を輩出しています。世界的成功を収めることになったきっかけというのは、先に日本サッカーの発展について言及したことと全く同じで、スペインが選手を輸出し始めてからです。近年、代表レベルの選手を筆頭に多くのスペイン人選手がイングランド、イタリア、ドイツといった欧州トップリーグでプレーするようになりました。一昔前にはドイツでプレーするスペイン人選手など想像できませんでした。特にプレミアリーグでプレーする選手が増えたことで代表が急激に強くなりました。

 そして何より、一番重要だったことは最初のタイトルを獲ったことです。タイトルというのは、何より自信をもたらします。2008年にユーロ(欧州選手権)を獲ったスペインはそれ以降、「勝てる」という自信を持ってプレーするようになりました。それこそが一番の理由だと思います。

私が適応していかなくてはいけない立場

千葉に来て多くの変革を行ったエスナイデル監督。結果を出すには時間が必要と語る 【スポーツナビ】

――現代のサッカー界というのは結果を求めすぎだと思いますか?

 はい。ただ、それは避けられないことだとも思います。選手、監督などサッカー界の全ての座は結果次第です。残念ながらそれが現実であり、われわれはプロとしてそれを受け入れながら仕事をしていく必要があります。

――当然あなたにも1年目でのJ1昇格という結果を求める声があるかと思いますが、もっとプロセスを見ていくべきですか?

 日本はスペインや欧州よりも忍耐力があり、プロセスを注意深く見守る風潮もあるように感じます。このクラブは可能性に満ちた素晴らしいクラブですし、当然私も1年で結果を出したいと考えています。しかし、今季は本当に多くの変革を行ったので、それには時間が必要であることも歴然たる事実です。

――これまで話しを聞いていると日本サッカーに対するネガティブな印象は全く持っていないように感じます。

 ネガティブなことは1つもないですね。何より私は今、日本という新たな国で指揮をとっているわけなので、私が適応していかなくてはいけない立場です。何か納得できないことがあったとしても、まずは受け入れていくつもりです。しかし、日本サッカーに対しては本当にそういったものがありません。

――あなたほどの実績を持つ人が「私が適応していかなくてはいけない」と話しているところに海外で成功するための秘訣(ひけつ)が隠されている気がします。

 選手時代から常にそう考えてきました。異国の地で成功するためには、適応しなければいけませんし、適応するためにはその土地のルールや文化、コンセプトを受け入れなくてはいけません。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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