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ロティーナ「日本人はトライが少ない」
スペインの名将が東京Vに来て感じたこと
東京ヴェルディのロティーナ監督に、シーズン序盤の戦いを振り返ってもらった
東京ヴェルディのロティーナ監督に、シーズン序盤の戦いを振り返ってもらった【スポーツナビ】

 今季から東京ヴェルディの新監督にスペイン人のミゲル・アンヘル・ロティーナが就任した。J2第17節までを終えて6位につけており、一時は首位に立つなど、昨シーズン18位に終わったチームを立て直しつつある。


 リーガ・エスパニョーラで20年以上にわたり指揮を執り、セルタでのチャンピオンズリーグ出場やエスパニョールの国王杯優勝など、実績を残してきた男はチームをどう改革してきたのだろうか。また、初挑戦となる日本のJ2という舞台で何を感じたのだろうか。シーズン序盤の戦いやここまでの手応えを振り返ってもらった。(取材日:2017年5月25日)

日本に来て大正解だった

――まずは日本に来た理由について教えて下さい。スペイン1部、2部で500試合以上を指揮した経験を持つ、あなたのような実績ある監督がJ2に来たのは正直なところ驚きました。


 スペインでは多くの成功を手にした一方で、失敗もした。スペインでは失敗の代償が高くつくため少し休業し、その間にスペイン2部からのオファーがあったのだが、海外挑戦をすることに決めた。最初はキプロス(オモニア・ニコシア、2014年から)に行ったが望んだような環境ではなく、短期に終わった。


 次に行ったカタール(アル・シャハニアSC)は、スポーツ面では満足する環境で1部昇格を果たしたが、サッカーへの熱はさほど高くないリーグで物足りなさがあった。日本のサッカーについては長年いい評判を聞いていたので、機会があれば行ってみたいと思い、私の方から動き、東京Vが興味を持ってくれたというのが大まかな経緯だ。


――以前、動画サイトであなたのインタビュー映像を見ました。5年前のものでしたが、当時から「いつか日本で指揮してみたい」と答えていました。海外挑戦を決める前から日本に興味を持っていたのですね?


 そうだ。前から日本の社会、国としての素晴らしい面を実際に日本のことを知る知人から耳にしていた。それが実現した今、日本に来たことは私にとって大正解だったと思っている。

J2はサイドアタッカーが少ない

J2の中盤の選手の質に驚いたという一方で、サイドアタッカーの少なさを感じたという
J2の中盤の選手の質に驚いたという一方で、サイドアタッカーの少なさを感じたという【(C)J.LEAGUE】

――東京Vでの今季のスタートについて、開幕戦(徳島ヴォルティス戦)こそ敗れましたが、2節から5連勝と好スタートを切りました。シーズン序盤をどう総括していますか?


 周囲の期待、予想を上回るような入りができたと思っている。特に昨季の東京Vは満足できる結果を残せず、期待よりも不安要素が多くあったチームだ。ここまでの出来については満足している。


 当然、より質の高いサッカー、いい結果、順位を望む気持ちはあるが、やはりJ2は拮抗(きっこう)した難しいリーグだ。全ての試合が難しいし、逆に勝てない相手はないと言うこともできる。リーガで指揮を執っていると、特に近年はレアル・マドリー、バルセロナと戦う時には「引き分けで御の字」「どう大敗を避けるか」と考えるところがあった。J2ではそういうことはない。たとえ最下位のチームでも上位に勝利することは可能だし、それくらいチーム間の実力は詰まっている。だからこそ、競争力の高いリーグだと捉えている。


――J2を戦ってみて最も驚いたことは何ですか?


 一番驚いたのは選手の質の高さだ。技術レベルが高く、フィジカル面でもいいものを持っている。ただ、テクニカルな選手が多い分、1対1の突破を得意とするようなサイドアタッカーは少ない。スペインにはそうしたタイプの選手が非常に多い。J2にはボールさばきのうまい選手が多く、中盤の層はかなり厚い。全てのチームに技術レベルの高い中盤の選手がいる点には驚かされたし、スペインにはこれほどの層の中盤の選手はいない。


――ただ、私は日本ではボールさばきのうまい中盤の選手を育成しすぎていて、GK、センターバック(CB)、センターFWといったポジションの選手をきちんと育成できていないと考えています。


 国外のリーグを初めて見る時、そのリーグの特徴をつかむためには2つの方法がある。1つはとにかく多くの試合を見ること。もう1つはより効率的な方法で、ゴールのハイライト映像を見ることだ。ゴールを見ればそのリーグが持つ特徴、チームや選手の質を知ることができる。よって、まず私はJ2のゴール映像を見て、このリーグの特徴を把握した。その後に昨季の東京Vの失点を全て、何度もチェックした。そこで分かったことは、J2には守備側から見た時に避けられるゴール(失点)がたくさんあるということだ。


 失点は3つのタイプに分類できる。1つ目が「避けることのできない失点」で、ゴラッソ(スーパーゴール)が典型だ。2つ目は、例えばGKのパンチングミス、CBのクリアミスなど「ヒューマンエラーによる失点」で、シーズンにおいて一定数ある。3つ目が「避けることのできる失点」。ポジショニングミス、カバーリングの遅れなどに起因するもので、守備の戦術コンセプトを知っていれば、実行していれば避けられたゴールだ。実はJ2というリーグはこの失点が非常に多い。


 私が東京Vでプレシーズンから取り組んでいるのはこのタイプの失点を防ぐことだ。実際、シーズン序盤からこのタイプの失点は確実に減っている。監督にとって、ディフェンスの選手に守備を教えることは攻撃を教えることに比べれば難しいことではない。

守備の戦術コンセプトを教えるのは難しくない

守備の指導に定評のあるロティーナ監督。東京Vではまず「避けることのできる失点」を防ぐことに取り組んだ
守備の指導に定評のあるロティーナ監督。東京Vではまず「避けることのできる失点」を防ぐことに取り組んだ【(C)J.LEAGUE】

――確かにこれまで私も何度かスペイン人の指導者、サッカー関係者とJリーグ、育成年代の試合を見る機会がありましたが、「攻撃側のメリットよりも守備側のデメリットから生まれるゴールが多い」という意見を聞くことが多いです。


 その傾向はあるだろう。だからこそ、育成年代から守備の個人戦術を教えていく必要がある。現代サッカーにおける守備戦術では、ゴール前でフリーな選手というのは生まれにくくなっている。そうした選手が生まれるとすれば、守備側の個人戦術の実行ミスによることが多いのだ。


 今、チームではゴール前でフリーの選手が生まれないような個人戦術、守り方を教えている。そこについては比較的うまくいっていると思う。ただ、守備の戦術コンセプトはできる限り育成年代の早い段階から教えられるべきだと思うし、それを教えることは難しいことではないと思う。


――スペインの中でもあなたの出身地域であるバスク州は、特に守備の戦術コンセプトの指導メソッドが体系化、徹底されているように感じます。


 確かにレアル・ソシエダ、アスレティック・ビルバオといったクラブを筆頭に、バスクではいい指導がなされているが、私はスペイン全般でしっかりとした選手育成ができていると考えている。国としてそうした指導が実現できている要因は、20年以上前からアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、オランダ、ドイツ、イタリアなどから外国人指導者がやって来て、彼らがスペインサッカーに多くのものをもたらしたからだ。


 最終的にはスペインのサッカー、指導法というものが確立されたが、その過程で国外の指導者が新たなアイデア、メソッドをスペインにもたらし、国内外の良い要素が融合したことでスペインのオリジナリティーが生まれた。今の日本サッカーはそうした過程にあると思うし、国外から指導者を呼ぶことはプラスに働くと感じている。

小澤一郎
小澤一郎
1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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