ロッテ・大谷は思いを秘めて黙々と 役割に徹する男の底力
役割に徹して黙々とマウンドに上がる大谷。胸に秘めた思いとは? 【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】
千葉ロッテの中継ぎ投手・大谷智久は控えめに笑う。
先発投手やクローザーに比べて、中継ぎ投手にスポットライトが当たることは少ない。近年こそ「ホールド」という記録で評価されるようになったが、「縁の下の力持ち」的な存在である。
大谷はプロ5年目の2014年からその役割を主に担うようになった。
「チームが勝つために、先発投手に勝ち星がつくために、手助けができればいいと思っています」
大谷は落ち着いた口調でそう言った。
チームが勝つ瞬間のために
ホッとできるのは、自分が抑えてチームが勝ったときのほんの一瞬だけだ。試合後には次の日の登板のために準備する。そして、翌日もまた球場に来て、準備する。大谷はこうした地道なルーティンを淡々と積み重ねている。
「先発の経験もあるので、そのつらさはわかっているつもりです。『リリーフは大変だから、先発投手には長いイニングを投げてほしい』とは思わないですね。自分が抑えて、チームが勝って、先発投手に勝ち星がつく。その瞬間のためにやっています。その一瞬の喜びは、すごく大きいものなんですよ」
今季は8月27日終了時点で44試合(42イニング)に登板し、2勝2敗18ホールド、防御率3.21をマークしている。大谷はこの成績に表情を曇らせる。
「満足いくものではありません。もっと多くの試合で投げていないといけないというのもあるし……。これまでは、どちらかというと苦しいことが多かったですね」
例えば7月28日、本拠地・ZOZOマリンスタジアムでの埼玉西武戦。先発の涌井秀章が7回途中2失点と好投。大谷は1点リードの9回から5番手として登板したが、2本の犠牲フライを打たれて2点を失い、逆転負けを喫してしまった。
「『自分が抑えて、チームが勝って、先発投手に勝ち星がつく』というのが崩れたときは、ヘコみますよ。申し訳ない気持ちでいっぱいになって、いろいろ考えてしまいますね。あまり気持ちの切り替えもうまくないので。そのなかで、次へ向けてやるべきことをやる。悔しいですけど、悔しさを受け止めて、同じ思いをしないように、何をするべきかを考えます」
敗戦をきっかけに意識を変化
昨年8月、大谷は右ヒザの内側側副じん帯を損傷し、戦列を離れた。トヨタ自動車時代にも左ヒザのじん帯を痛めた経験があり、怖さを体が覚えていた。
投手は本来、踏み出す足を上げたときに、軸足の内側に力を入れて投げる。ところが、大谷は右ヒザの痛みがなくなったあとも無意識のうちにケガをしたところに負担がかからないように、力を入れないまま投げてしまっていた。「どこかで逃げているようなフォームでした。直球も変化球も抜けて、制球できないことが多かったですね」と振り返る。
しかし、7月28日の敗戦をきっかけに、軸足の内側に力を入れることを意識し直した。
「怖さを捨ててやらないと、先はない、と。徐々に怖さもなくなって、今はそこを越えられた。自分の感覚に戻りつつありますね」
それは数字に表れている。今季の開幕から7月までの37試合では防御率3.53だったが、8月に入ってからの7試合では同1.42と好投が続いている。