V字回復を遂げた名古屋グランパス 風間監督が目先の勝利よりも大事にした事

斎藤孝一

「負けたくない」よりも「勝ちたい」サッカー

風間監督は目先の勝利よりも、永続的な強さを身に付けることに重点を置いた 【(C)J.LEAGUE】

 昨季まで率いていた川崎を見れば分かるように、風間サッカーを一言で言い表せば「超攻撃的」。名古屋でもそのスタイルは変わっていない。どんな相手であろうとボールを保持し、奪われないようにパスをつないで相手ゴールに迫っていく。

 守備からチーム作りを始める監督が多い中で、風間監督は攻撃に主眼を置く。サッカーという競技は、得点を取らなければ勝てないという、至極当たり前の論理の実践で、ボールを奪われなければ相手の攻撃を受けることはないという守備の考え方も同じこと。「負けたくない」というより「勝ちたい」という意識を強く打ち出している。

 練習はボールを「止める、蹴る」ことから始まった。足元に正確に瞬時に止めることができれば、相手はボールを奪いにくることができない。そして、その場所に止まっていればすぐに蹴ることができる。正確なトラップは相手に主導権を与えない武器になる。

「目を合わせる」も頻繁に登場するキーワードだ。密集の中でもフリーな選手を見つける目を養う。そして高いスピードで選手同士が意図を持ったパス交換をする。当然その中でもしっかりとボールを扱える技術が必要で、しかもそれができる選手がそろっていないとパスは回らない。

「自分たち主体でサッカーをするのであれば、自信、技術、強さを徹底的に高めないといけない」と風間監督。ゆえに選手に求める技術は非常に高く、選手の質がそろうまでにはどうしても時間が必要となる。

 われわれ記者は何度か監督に「今は何割の出来か?」とチームの完成度を問い掛けたが、「技術は常に進化し続けるもの、限界、上限はない」がいつもの答えだ。つまり風間サッカーに完成形はないのだ。

V字回復の要因と今後の課題

7月に加入したシャビエルは直近3試合で奪った12ゴールのすべてに絡む活躍を見せている 【(C)J.LEAGUE】

 5連勝で2位に勝ち点3差まで追い上げたV字回復の要因はもちろん、風間監督が積み上げてきたことが浸透し、元々能力の高い選手たちが体でそのサッカーに反応できるようになったことが一番だろう。指揮官も「自分たちがしっかりボールを保持しながら、相手をコントロールすることが前よりできるようになった。相手のどこを突けばいいのか、ボールを動かしながら見つけられる」と、チームの成長に一定の評価を下す。

 さらに、7月に加入したシャビエルの存在が大きい。ブラジルの1部リーグで10番をつけていたテクニシャンは、フットサル仕込みの足技や判断力に優れ、すでにチームの中心として機能している。直近3試合で奪った12ゴールのすべてに絡む活躍を見せ、出場は6試合ながらアシストランキングで上位につける。福岡戦では厳しいマークをものともせず、後半に繰り出したノールックヒールパスは、かつての名古屋のヒーロー、ストイコビッチを彷彿(ほうふつ)とさせる。

 若手の台頭も著しい。去年まで名古屋でのリーグ戦出場がわずか5試合だった4年目の青木は、25節のロアッソ熊本戦でドリブルからのミドルシュートを決めて自信をつけると、現在5試合連続で得点中。元々「宇宙人」と周囲に呼ばれるほど潜在能力の高い技巧派だったが、右サイドで組むシャビエルとのコンビは絶妙で、シャビエルにボールが渡ると、スルスルと顔を出し相手の危険な地域に入り込む。青木も「パスを受ける選手からすると、すごくいいパスがくるのでやりやすい、常にゴールを目指していける」と、そのコンビネーションに手ごたえを感じている。

 これまでに57ゴールと得点力はリーグトップの名古屋だが、攻撃に力を割く分失点も多い。首位・湘南ベルマーレの21失点の倍以上となる45失点はリーグで4番目の多さだ。ビルドアップの途中でボールを奪われ受け身になると守備の枚数が足りず、重大なピンチに陥ることもしばしばで、この連勝中でも愛媛戦では4点差を、町田にも2点差を追いつかれた。

 それでも風間監督は「試合ですから相手より1点でも多く取ればいいわけで、1−0も4−3も同じかと思います。問題があるとすれば、自分たちのやり方を変えて点を取られているというところ。そこはしっかり見ていきたい」と、同点にされた守備ではなく、ボールを保持してチャンスを作り続けられなかった攻撃を問題視している。

 とかくJ2では手堅い試合運びをする「堅守速攻型」のチームが昇格を果たす傾向が強い。それに対し、名古屋の「たたかれたらたたき返せばいい」というサッカーは異質だ。2位福岡とは勝ち点差が「3」あり、もちろん今の順位のままでは自力で昇格を決められないが、残りは13試合あり、史上まれにみる混戦のJ2リーグは何が起きるか分からない。

 風間監督のまいた種が、ようやく花を咲かせ始めた名古屋グランパス。秋にJ1昇格という実を収穫するためには、このまま結果を出し続けるしかない。今、それができる可能性を示している。

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著者プロフィール

1965年生まれ。愛知県出身。テレビのディレクター&カメラマンをしながらスポーツライターとして活動中。名古屋グランパスではJリーグ発足前のブラジル・コリンチャンスとのプレマッチを撮影したことと、アジアカップウイナーズカップ(今のACLの前身)を香港で応援したことが自慢。サッカーの他にも、取材で出会った岐阜のスポーツ選手の応援をしている。

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