「ハキームは弟みたいなもの」 サニブラウンが切磋琢磨するトップ選手達

及川彩子

世界新を狙う、兄貴分のテイラー

男子200メートル予選を突破したサニブラウン。チームメートに支えられ、切磋琢磨し、世界の舞台で戦っている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 男子100メートル決勝進出の期待がかかった準決勝のレースで、「やらかしました」と頭を抱えたサニブラウン・アブデルハキーム(東京陸協)。その姿を見て、一緒に練習するチームメートたちも同じように心を痛めていた。この7カ月間、同じ目標に向かって切磋琢磨(せっさたくま)してきたから、喜びも苦しみも分かち合えるのだろう。

 サニブラウンは1月からオランダの短距離コーチの下で練習しているが、チームにはオランダの8選手、外国人が7選手所属する。外国人選手は米国、イギリス、日本と多岐にわたり、彼らは1月から南アフリカ、オランダ、フロリダなどで練習を行い、今大会のために準備してきた。

 三段跳びで世界陸上連覇と世界新を狙うクリスチャン・テイラー(米国)もその一人だ。
「つらいと思うけれど、この経験が絶対にハキームをトップ選手にしてくれると思う」と励ましの言葉をかける。

 テイラーも苦しい時期を乗り越えて、五輪連覇を成し遂げている。2011年テグ世界陸上、12年ロンドン五輪で金メダルをとったものの、13年モスクワ世界陸上では4位に終わっている。
「プロになってすぐに世界陸上、五輪で金を取って調子に乗っていたと思う。モスクワでメダルを逃してやる気に火がついた」と当時を振り返る。

 くしくも7日にサニブラウンが出場した200メートル予選は、テイラーが出場した男子三段跳び予選と、そして10日の200メートル決勝と三段跳び決勝はほぼ同じ時間帯に行われる。
 テイラーは、「ハキームは200メートルは熱い走りをすると思う。自分の試合も始まる時間だけど、何をおいてもハキームに声を掛けに行こうと思う」と話していた。
 テイラーの応援のかいあって、サニブラウンは200メートル予選を20秒52の組2位で通過し、準決勝に進んだ。

 テイラー自身は英国のジョナサン・エドワードの持つ世界記録18メートル29を今大会で破ろうと、意気込んでいる。サニブラウンに直接言葉にすることはないけれど、「自分が世界記録を狙う瞬間、ハキームも決勝の位置に立ってほしい」、そんな気持ちがうかがえる。

オランダでの生活もサポート

「ハキームは弟みたいなもの」と話すテイラー。自身は世界新での優勝を目指す 【写真は共同】

 テイラー自身が在籍するフロリダ大学にサニブラウンが進学することもあり、「ハキームは弟みたいなもの」と、常々口にする。南アフリカでも食事に行ったり、オランダでもトラック外でも親交がある。特にチームが南アフリカ合宿からオランダに戻った際に、サニブラウンの生活の立ち上げを手伝ったのもテイラーだった。

 連日30度を超える南アフリカとは異なり、オランダは冬。しかも戻ってすぐには雪が降るほどの寒さだった。オランダ陸連が用意してくれた宿舎からトレーニングセンターまでは、1時間に2本程度しかないバスに乗って向かう日々。東京の便利な暮らしに慣れていたサニブラウンには、寒さも利便性のなさもつらかった。

 車を借りたテイラーはサニブラウンに「必要なものがあったら言って。俺も遠征があって無理な時もあるけれど、行ける時は車で連れて行ってあげるから」と必要な家具を調達したり、家電を買いに連れて行ったりしていた。

「18歳で多くの子が親元を離れるけれど、ハキームの場合は知り合いがいないヨーロッパに急に放り込まれたわけだから、唯一の知り合いの俺たちが手伝うのはあたりまえ。俺たちは家族みたいなものだから」

 日本選手権前のオランダの試合で、サニブラウンが21秒10というタイムに終わった時も、一番心配していたのがテイラーだった。しかし大げさに言葉をかけることはなく、試合翌日はサニブラウンとテンポ走をしていた。日本選手権に少し不安を持っているサニブラウンをあおっても仕方ない。普段通りに接するのが一番だから、テイラーなりの励まし方だった。

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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