中村俊輔とともに成長曲線を描く磐田 「自分の色ではなく、ジュビロ色に」

杉山孝

磐田が04年以来となるリーグ戦6連勝

J1第19節、磐田はアウェーで川崎に5−2と大勝して、2004年以来となるリーグ戦6連勝を記録 【(C)J.LEAGUE】

 13年ぶりの快挙だった。7月29日のJ1第19節、ジュビロ磐田はアウェーで川崎フロンターレに5−2と大勝して、2004年以来となるリーグ戦6連勝を記録した。

 輝きを放った1人が川辺駿だった。開始8分の先制点、後半開始10分には3−1とリードを広げるゴールと、長短2本のカウンターからゴールネットを2度揺らしている。

 キャリアハイとなる今季リーグ4点目を挙げた夜、川辺はかみ締めるように話した。

「見て学ぶことが多いし、自分がここに残るきっかけでもありました」

 サンフレッチェ広島からの期限付き移籍が3年目に入った21歳が感じる、新背番号10の影響力を指した言葉だった。

 開幕前、名波浩監督には青写真があった。「30人いるうち、どこを基準にしてチームをつくるのか。去年は(チーム中)15位前後だったけど、今年は1、2位とは言わないものの、限りなくAクラスにいる選手たちを基準にしなくてはいけないと思うし、それだけのクオリティーの高い選手が入った」。そのためのボトムアップの役割の一端を、自然と担ったのが中村俊輔だった。

 指揮官がかける試合のピッチ上以外の期待に、今年39歳になるベテランはしっかり応えていた。日本代表がワールドカップ予選に臨んでいる6月、名波監督はこう話していた。

「(俊輔の)影響はもちろん感じているし、彼もそういう影響力があることは自分で認めている。チームが強くなるために、各ポジションごと、さらにユニットの中でどういうふうに崩していかなければいけないかということを、少しずつアドバイスしてくれている」

櫻内、川辺が見せる意識の変化

川辺(左)や櫻内のように、俊輔の影響を受けて意識の変化を見せる選手も出てきている 【(C)J.LEAGUE】

 監督が変化の一例として挙げた選手がいる。

「例えば櫻内(渚)のように、この数カ月でぐっと伸びて、誰が見てもAクラスになった選手もいる。櫻内に限らず、何人かそういう選手は出てきているのでは」

 その櫻内本人が、変化を感じた試合が3−0で勝利した第8節の鹿島アントラーズ戦だった。15分、俊輔がピッチ中央右寄りで縦パスを受けると、少しストライドを大きくとりながら誘うようにボックスへと向かっていく。相手の左サイドバックを目の前まで引きつけてから右にはたくと、攻め上がっていた櫻内がすかさず折り返し、川又堅碁の先制点を導いている。

「俊さんが入るだけで、時間のつくり方が本当に違いますし、こちらが主導権を握れる。自分はうまい選手ではなく、オーバーラップしてなんぼ。鹿島戦では、中に相手を3枚引き寄せてくれて、僕がフリーになりました。僕が上がってくることが分かっていての、ああいう時間のつくり方は、本当に僕にとってプラスになります」

 このゴールには、他にも味わいがあった。俊輔が呼んだ縦パスは、2人の相手MFの間から少し位置をずらして、狭いルートへと要求したものだった。ボールを送ったのは、センターサークル内でボールを持った川辺だった。

 俊輔が、瞬時に記憶を引っ張り出す。

「あの時は、鹿島が少し傲慢(ごうまん)だったかな。あの間を、オレはいつも狙っているから。駿がこっちを向いているから、間に『こうやって入れろ』って、今でも言うけれど。ムサエフにも言うんだけれど、まだ見えていないかな。あそこが一番マークされない、一番ボールを欲しいところ。一番狙いどころだからこそ、あれができると、駿も自然と上がっていけるんじゃないかな」

 こうした縦パスに、櫻内は「入らないといけないし、怖がらないでパスを入れたり、要求していくことが大事」と重要性を語る。

「そうやってどんどんトライの回数が増えるし、恐れずにどんどんパスをつけていくことでゲームの質も上がる。1人の力によって、そうやって意識も変わると思うし」

 川辺は、あのパスが普段からの意識の表れだったと振り返る。「ああいうパスを練習から何回か通していたので、たぶん俊さんもあそこに来ると思って。間に立ってくれて、空いていれば出そうと思っていました。僕はパスを出す時、相手のボランチじゃなくて、サイドハーフを見るようにしているんです。サイドハーフがちょっとつられたので、少ししか隙間がありませんでしたが出しました」。さらに川辺はこの鹿島戦を、79分の自らのゴールで締めくくっている。

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著者プロフィール

1975年、ジーコとストイコビッチと同じ3月3日生まれ。新聞社で子供からプロまで5年間、サッカーをメインにみっちりスポーツを取材。サッカー専門誌編集部を経て09年に独立。同時にGoal.com日本版編集長を務め、2012年7月まで同サイトの日本での確立・発展に尽力。現在はライター・翻訳者・編集者としてサッカーとスポーツを追い続ける。サッカーW杯取材は現在のところ02年、10年の2大会。

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