中村俊輔とともに成長曲線を描く磐田 「自分の色ではなく、ジュビロ色に」
俊輔の存在が若手の大きな助けに
指揮官は、ただ結果だけを見て俊輔の影響力に感謝しているわけではない 【Getty Images/J.LEAGUE】
例えば、今季初のヤマハスタジアムでのリーグ戦連勝となった6月25日の第16節・FC東京戦。俊輔と川辺の距離感は時に近く、時に大胆に入れ替わった。相手を引き伸ばすダイナミクス(力学)が形になった2アシストに、川辺も感じるものがある。
「サポートに行けば(パスを)出してもらえますし、相手も俊さんにだいぶ食いついてくれるので、そういう部分では自分が得をしているというか。良いポジションを取れれば、相手のプレッシャーをかいくぐることができました。今日は特にペナルティーエリアの少し手前で受ける回数が3回くらいあって、そういう部分が結果につながりました」
“孝行息子”の活躍に、名波監督も「今日は代表のスタッフが来ていたのですが、(川辺はもう)代表に行っちゃってもいいんじゃない?」と、大きな賛辞をジョークでくるんだ。
サックスブルーの指揮官は、ただ結果だけを見て俊輔の影響力に感謝しているわけではない。「自分の色ではなく、ジュビロ色に染めてくれているんでね。それも良い方に出ているかな」。そのカラーについて俊輔は、「オレがオレが、とやっていたらダメ。いろいろな意見があって、かみ砕いて、合わせた方がよりパワーアップすると思う」と解釈する。
つながり合いの成長を促すのがジュビロ色
名門復活の設計図に、成長を続ける新背番号10ががっちり当てはまっている 【Getty Images/J.LEAGUE】
「形というよりは、1人ひとりが成長していける、そういう感じでやっているんだよね。例えばベタ引きした方が守るのが楽なこともあるかもしれないけれど、それだと、それだけの選手になっちゃうでしょ? 守備も縦ズレとか横ズレとか中締めとかいろいろあって、暑い中では『今日はきつい』ということもあるかもしれない。でも、そうやって責任を負ってやった方が、100%に近い力が出るものだし」
数字の並びではない。個人とそのつながり合いの成長を促すのがジュビロ色だと、チームの今季の成長が物語っている。
アウェーで5点を挙げた川崎戦にも、俊輔は「個々の能力は完全に向こうの方が高い」と言い切った。内容も圧倒したわけではないが、だからこそ得られる成長の実感がある。「僕のネガティブな部分は駿がつぶして、駿が持っていないところは僕が」と、チーム全体に補い合いが広がる。
「人のポジティブじゃない部分をうまくカバーして、次の人が色を出しやすいようにというのが、皆だんだん分かってきていると思う」
今年1月の入団会見で、俊輔は名波監督の現役時代の印象をこう話していた。
「自分のプレーをどんどん出すだけではなく、周りの選手のプレースタイルだったり、メンタルの部分まで見える。そこがやはり、表に出ない他の選手との差になっているんだと、すごく勉強になりました」
変化の一端が見えた、先述の鹿島戦。俊輔が一番印象的だったと語ったのは、6試合ぶりに先発に戻った山本康裕だった。「ずっとサブだったのに、よく動いていた。あの先制点の場面、康裕はゴール前まで走っているからね」。その視野は、ただプレーだけをとらえているわけではない。
日本代表の背番号10同様、チームのマネジメント術も着実に受け継がれているようだ。「勉強になる」。7年ぶりに宿敵のホームで勝利した鹿島戦で、敵地のうだるような暑さの中で0−0に終わった落胆のヴァンフォーレ甲府戦で、大雨の中での13年ぶりの快挙の後で、俊輔は同じ言葉を繰り返す。
名門復活の設計図に、成長を続ける新背番号10ががっちり当てはまっている。