逃げ一族ヤマカツの一発 「競馬巴投げ!第148回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

北海道出張で宿舎に閉じこもる厩舎スタッフは病気なのか、どうなのか

[写真3]レッドソロモン 【写真:乗峯栄一】

 この小林常浩が「一年のピーク」とみていたのが“北海道出張”である。正月過ぎて栗東行くと、「年が明けると、いよいよ北海道開催が近づいてきたって思うよなあ」などと言う。「近くない、近くない」と手を振る。北海道開催は6月からだ。まだ半年もあるじゃないか。

「うちの厩舎じゃよお、毎年4人が北海道出張行くんだけどな、3人を抽選で選ぶことになる。え? なぜかって? 一人はオレに決まってるからだろうが」などとも言っていた。

 この北海道大好きオジサン、行ってしばらくすると、必ずうちに電話してくる。

「おう、オヤジか。いま何食っとる? 豆腐? 食いてえなあ、本州の豆腐。こっちはよ、毎日、ウニ、カニ、イクラ、ボタンエビ、もう飽きたよ、ススキノ飽きた、ウハハハハ。ああ、豆腐食いてえ」

 そのあと「キャー、フフフフ」という女の嬌声が聞こえてきて、「ねえちゃんたちはオレのこと離さねって言うしよう、もう参ってるよ」などと言うのを聞いて、ガチャンと電話切る。毎年の恒例行事だ。

 一度「北海道出張行っても、調教と馬体の手入れだけやって、あとは宿舎でじっとしているという、そういう厩舎スタッフはいないの?」と聞いたことがあるが「いるよ、そういうやつも、たまにはな。でも、そういうやつは大概、病気だな」などと答えていた。

 しかし最近そうでもないと思うようになる。「あの、“ウニ・カニ・ねえちゃん・オジサン”の方が特殊だったんじゃないか」と思うことがよくある。

 5月のダービーの頃に栗東トレセンに行って、知り合いの厩舎スタッフに会うと「今年の夏は北海道?」などと聞くのだが、「今年は行かなくてすみそう」と笑顔を見せたり、「札幌は行かないといけないかも」と顔を曇らせたりする。最近はこの方が圧倒的に数が多いのだ。

 北海道出張で宿舎に閉じこもる厩舎スタッフは病気なのか、どうなのか、ああ調べに行きたい。調べに行ったあと、函館記念か何か当てて、ウニ、カニ、イクラの舞い踊りに浸りたい。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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