引退試合でも鈴木啓太は水を運ぶ 「僕は主役でなくてもいい」

碧山緒里摩

引退試合を10日後に控え、鈴木啓太が心境を語った 【撮影:大崎聡】

 25年目を迎えたJリーグの歴史において、リーグ主催の引退試合を行った者は20名にも満たない。引退試合開催の高く分厚い壁であった公式戦500試合出場の規定が撤廃された今も、選ばれし者の特権であることは変わらない。

 そんなひと握りのJリーガーのみが享受してきた最後の花道に7月17日、鈴木啓太が立つ。現役時代、誰よりも走り、誰よりも汗をかいたMFのために、福田正博、ギド・ブッフバルトらのレジェンドからロブソン・ポンテ、ワシントンらの盟友、さらに中村俊輔、小野伸二、田中マルクス闘莉王ら現役選手が集結する。

 浦和レッズひと筋16年間の現役生活を全うした鈴木に、引退試合に向けた意気込みを聞いてみた。(取材日:2017年7月7日)

メンタルの限界点を乗り越えていくのがプロ

引退試合に向けたトレーニングで、プロとアマチュアの差を再確認した 【撮影:大崎聡】

――引退試合まであと10日となりました。90分間走れる体は仕上がりましたか?

 昨日久々に、同期で入った岩本隼児やレッズアマチュアのメンバーと30分ハーフの試合をしました。僕は試合を想定してフル出場。やっと走れるようになりましたね。

――引退試合に向けてのトレーニングはフィジカル面とメンタル面、どちらがきついのでしょうか?

 フィジカルを上げていくには、メンタルの限界値が高くなければなりません。たとえば、10本スプリントのトレーニングをするとします。現役の時は100%の力で10本スプリントできましたが、今だと3本くらいできつくなります。そこで「5本くらいでいいじゃないか」という悪魔のささやきもあるのです(笑)。

 メンタルの限界点を乗り越えていくのがプロであり、さらにハードなトレーニングを積み重ねていくのがプロなんです。現役を退くと10本やるメンタルができなくなってくるし、追い込めなくなってきます。一度ステージを降りてしまうと、メンタルの弱さが出てきてしまい大変です。

――そもそも、もうプロではないですから、メンタルの弱さは出てきて当然ですけれど。

 そうなんですけれど(笑)。引退試合をやられた選手に聞いたのですが、「自分がいないとゲームにならない」「ケガをしてはいけない」と。そこが問題なんです。

 プロはケガをするかしないかのギリギリのところに踏み込んでいくから、パフォーマンスが上がると僕は思っています。技術の差は確かにありますが、プロとアマチュアの差は踏み込めるか踏み込めないか、追い込めるか追い込めないか。それが重要だと再確認しました。

お約束のゴールはいらないのではないか

現役時代は献身的なプレーでチームを支えた鈴木(左)。引退試合も「僕は主役でなくてもいい」と言い切る 【(C)J.LEAGUE】

――啓太さんの最後の花道のために、豪華メンバーがそろいました。

 そういう意味で、僕は主役でなくてもいい。主役はいっぱいいますから。

――「引退試合のお約束のゴールはいらないのではないか」と言っていましたが、その真意は?

 それは役者がいっぱいいますから。引退試合をやらせていただくのは本当にありがたいことですし、感謝しなければいけない。そこで僕が返すものは、ゴールなのか。

 僕は本当にいい時代を生きました。レッズでリーグ戦も取ったし、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)も取った。すごいメンバーと戦えました。引退試合ではそのメンバーとサポーターと、当時のスタジアムの雰囲気を作り出したい。「あの時こんな雰囲気だったね」と感じられるようなゲームをしたい。

 実際、あの当時は僕がゴールを決めたのではなく、ロビー(ポンテ)が点を取ったり、ワシ(ワシントン)が点を取ったり、闘莉王が点を取ったりという時代ですから。僕は僕の仕事をするという、恩返しでもいいのではないかと。

オフ・ザ・ボールの動きは自信を持っていた

ボールを持っていない時の動きに自信があったという鈴木は引退試合でどんなプレーを見せるのか 【(C)J.LEAGUE】

――引退試合でも啓太さんは水を運ぶ、ということですか。

 そうです。本来、ホストはゲストのために汗を流すものですから(笑)。僕はそのつもりでいます。

――引退試合ですから、周りの選手が「俺たちが水を運ぶよ」と言うのではないですか?

 言われますかね。それが嫌なんですよ。だって僕はそんなにゴールしていないじゃないですか(笑)。16年間で10得点(リーグ戦)ですよ。それに水を運ぶのは僕の仕事です。ただ体力的に水も運べなくなる可能性もありますけれど(笑)。

――現役の時の運動量は尋常ではありませんでしたからね。

 ボールを持っていない時の動きは自信を持ってやっていしました。コンディショニングはすごく気をつけていましたし、そこだけは絶対に負けたくないと思っていましたね。当時はボールを持てば輝ける選手がいました。彼らが高いクオリティーのプレーをするため、その分、僕が走り回るというか。役割分担はハッキリしていました。

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