引退試合でも鈴木啓太は水を運ぶ 「僕は主役でなくてもいい」

碧山緒里摩

今の選手にはレッズの背骨になってほしい

調子の上がらない古巣の後輩たちに「背骨になってほしい」とエールを送る 【撮影:大崎聡】

――現役を退いた寂しさを感じることはありますか。

 昨季までスタジアムに来ると、寂しさを感じていましたね。埼玉スタジアムへ来ると「このスタジアムいいな」「この雰囲気の中で試合ができるのは幸福だな」と感じていましたね。心残りだとか、うらやましいという感情はないですけれど、「自分はこんなすごいところでプレーしていたんだ」という思いはありますね。

――最近のレッズの戦いぶりを見ると、歯がゆさを感じているのではないですか?

 そうですね。ゲームは生き物ですし、対戦相手があることですが。チームにとって、背骨になり得る選手がいる中、なかなか出てこない。レッズとはどういうチームか、これだけのサポーターを背負っているとはどういうことか、選手たちが今一度、理解する必要があります。僕らにもそういう苦しい時期はありましたし、今の彼らと同じようにチームに背骨がなかったことはあります。でも04〜07年くらいはいい時期を迎えられました。

 今のチームがだめと言っているわけではなくて、これから自分たちが自覚して作っていかないといけない。背骨になっていける選手たちは何人もいます。今年は(クラブ設立)25周年ですけれど、次の25年がどうなっていくかにつながっていくことですから。

今のビジネスの道を示した無観客試合

――引退後に携わっている腸内フローラのビジネスですが、ビジネスの世界ではサッカーのように明確な結果として表れません。そんな生活にも慣れましたか?

 生活は不規則ですし、引退して1年くらいは慣れませんでしたが、ここ最近ですね、慣れてきたのは。腸内細菌叢(そう)を整えることによって、選手のコンディションニング、そしてパフォーマンスは確実に上がります。自分たちが研究した結果、アスリートのパフォーマンスが向上することが目的ですが、それだけではありません。一般の方にも還元できるんです。アスリートの方が一般の方より腸内細菌叢が健康と言われています。僕は一般の方にただ健康になってほしいのではなく、健康になってスタジアムに足を運んでほしい。

 なぜそんな話になったかと言うと。サポーターの方から「スタジアムに応援に行くのはけっこう疲れる」という話を聞きました。「年を取るとスタジアムに行くのが億劫(おっくう)になる」と。スタジアムに行けば、喜怒哀楽が出せてエンターテインメントとして楽しいけれども、疲れる。だったら、疲れないようになってもらえばいい。アスリートは疲れにくい身体があります。もしかしたら、アスリートの腸内細菌叢を調べることによって、健康な身体作りのヒントになるのではないかと思いました。

 選手たちは自分たちのプレーでお客さんを呼ぶ、僕はそのスタジアムへ行ける身体作りのお手伝いをする。サッカーはお客さんあってのもの。これは無観客試合の時に痛感しました。あの試合はプロサッカーではないし、エンターテインメントでもない。今やっていることは腸内細菌ですけれど、スポーツ界、サッカー界を盛り上げていきたい。サッカー選手はサッカーのことだけやるのではなくて、頑張ってロールモデルを作りたいと思っています。

ひとつの時代を映す引退試合にしたい

引退試合のキーワードは「同窓会」。鈴木は「この雰囲気、浦和レッズだな」と思ってもらいたいと語る 【(C)J.LEAGUE】

――あらためて、7月17日はどんな引退試合にしたいですか?

 今回のキーワードで「同窓会」とさせてもらっているのですが、みんながスタジアムに来た時に、「この雰囲気、浦和レッズだな」と思ってもらいたいですね。今のレッズも当然レッズなのですが、かつてのレッズもレッズなんです。文化とは、歴史が続いて、文化として育まれるわけじゃないですか。昔のサポーターがスタジアムの雰囲気を懐かしむことができて、今のサポーターは「こんな雰囲気だったんだ」と新鮮に思ってもらえるように、みんなが「レッズはこうだった」「こういう道に進んでいくんだ」ということが示せるようにしたいと思っています。

――啓太さんの思いが詰まった引退試合を楽しみにしています。

 僕は思いだけです。プロの世界では僕よりうまい選手はいくらでもいました。ただ、周りにいい選手がいて、助けてもらえた。今回の引退試合も「なんで僕なんかができるのだろう」と思うんです。結局、みんなが助けてくれるんですよ。ありがたいですね(笑)。

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