引退試合でも鈴木啓太は水を運ぶ 「僕は主役でなくてもいい」

碧山緒里摩

ハセは僕が見たことのない風景を見ている

ともにプレーした長谷部(右)について、「僕が見たことのない風景を見ている」とたたえた 【(C)J.LEAGUE】

――前回、長谷部誠選手にインタビューした際、「適応力や判断力、考える力は今の自分よりも啓太くんが上」と言っていました。

 そんなことはないですよ(笑)。それは先輩をしっかり立てる、彼のいいところですが、そんなことはない。彼と一緒にプレーしたのは23歳の時までですか。ハセはそこからものすごく大きく成長しました。彼のいいところは、何よりも芯がしっかりしているところ。彼が陰ですごく努力していたこと、海外で戦う準備を進めていたことも知っています。

――長谷部選手はスカウトの宮崎(義正)さんに「啓太をしっかり見ておけ、啓太についていけば大丈夫だから」と言われたと語っていました。

 僕が高校からレッズに入る時は、「(小野)伸二をしっかり見ておけ」と言われました。それから「ほかの選手に流されるんじゃない。プロにはいろいろな選手がいるが、流されちゃいけないよ」とも言われましたね。宮崎さんは車の中でずっとしゃべっていたので、同じようなことをハセも聞いていたと思います。

――引退しても啓太さんのことを一方的にライバルだと思っているとも言っていました。

 あいつはすごいですね、そういうことを言って、自分の株を上げる(笑)。ハセはブンデスリーガで11シーズン目を迎えようとして、日本代表でも100キャップを超えています。僕なんかが見たことのない景色を見ていますよ。

不整脈がなければ今季も現役でやれた

不整脈に苦しんだ鈴木。引退を決意した当時を振り返った 【撮影:大崎聡】

――ボランチを組んだ長谷部選手が攻撃参加するだけはなく、センターバックの闘莉王選手もオーバーラップしたまま戻って来ないなど、当時のレッズはバランスを取るのが大変だったのではないでしょうか?

 ハセとは戦術の話はほとんどしたことがないですし、闘莉王とも、ロビーともそう。みんな好きにやっていましたし、僕はみんなに好きにプレーしてほしかった。その分、僕がカバーする。そこがプロで自分が生きる道だと思っていましたから。僕がいることによって、周りの選手が安心してくれたらいいなと思っていました。

 周りが好きにプレーする中、バランスを崩さないのが僕の仕事なので。逆に好き勝手にプレーする選手がいてくれた方が、僕が生きるというか。能力が高く、好き勝手にやる選手がそろっていたから、僕自身、評価してもらったという側面はあります。

――自分が生きる道はここだと定まったのはいつごろですか?

 中学生のころから自分よりもうまい選手はいくらでもいましたから。その時には方向性は定まりましたね。

――16年間の現役生活に悔いはないですよね。

 はい、やり切りましたから。心臓のこと(不整脈)がなければ、あと2、3年、今シーズンくらいまでは現役を続けられたと思いますけれど。

 自分の信念の中で、その時その時の選択をイエスとしたいという思いはあります。この選択が間違いだったと思いたくない。選択が間違いにならないように努力すればいい。それが仮に結果として芳しくなくても、この選択があったからこそ代え難い経験を得たと考えますね。だから、何かの選択を後悔することはないです。

 引退についても、まだやれたと思う人もいるかもしれませんし、自分の中で8割くらいの力で続けることはできたと思うこともありますけど、それをやりたいとは思わない。

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