コンフェデ杯の成功が隠したW杯への不安 懸念はプレ大会を経験していない7都市

中田徹

テストにならない2部リーグの観客動員状況

サランスクにできる予定のスタジアム模型。W杯のテストをどうするか 【Getty Images】

 コンフェデ杯が行われなかった7都市は独自にイベントを行って、W杯前のテストをしなければならない。では何をするのか? その1つであるボルゴグラードは来年のロシアカップ決勝戦を開催するという。「ロシア代表の試合を呼びたい」と語る関係者もいた。しかし、モスクワにあるメーンスタジアムのルジニキもテストマッチをしないといけない。ロシア代表の親善試合は基本的にルジニキで開かれるだろう。

 W杯開催都市の中にはロストフという15−16シーズンにロシアリーグで2位になったクラブを持つ町もある。しかし、サマーラ、エカテリンブルクは1部リーグのチームを持つが共に強豪チームとは呼べない。カリーニングラード、ニジニ・ノブゴロド、ボルゴグラードにあるのはいずれも2部リーグのチームだ。サランスクにいたっては3部リーグである。彼らがロシアリーグをW杯のテストの場とすることはできるだろうか。

 今季のロシア2部リーグ開幕戦の観客動員を例に取れば、サマーラのホームゲームが6789人とダントツに多く、その他9試合は600人から3500人と惨憺(さんたん)たる状況だ。この数字も、あまり信用できないと私は思っている。というのも、1000人と発表されたディナモ・サンクトペテルブルグのホームゲームを私は実際に観戦したのだが、どう好意的に見積もっても500人ほどしか客は集まっていなかったのだ。関係者が「テストはコンサートで」と言うのもうなずけるサッカー2部リーグの観客動員のありさまだ。

W杯終了後のスタジアムをどう活用するか

ソチに新築したスタジアムはW杯後どのように活用されるのかも問題となる 【Getty Images】

 これは、すなわちW杯終了後のスタジアムをどう活用するか――という問題でもある。例えばソチ。冬季五輪とコンフェデ杯を成功させているこのリゾート地は、恐らく来年のW杯もつつがなく開催するだろう。しかし、昨季ロシア3部南地域リーグで活動していたFKソチは、コンフェデ杯期間中の6月に、「来季は活動を停止し、将来に向けて力を蓄える」と発表した。

「よりプロフェッショナルなクラブとなって、将来はもっと高いステージで戦えるようにする」と関係者は語っており、将来はW杯で使ったスタジアムをホームとして使用する意向も持っているようだが、その言葉にあまり説得力はない。

『スポーツエクスプレス』というロシアのウェブサイトが「未来のない天国」という見出しを付けて、ソチのスタジアムのことをこう記した。

「(ソチのスタジアムは)コンフェデ杯では素晴らしい運営だった。しかし、W杯が終われば『白い像(無用の長物の例え)』と化す可能性がある。美しく高価なスタジアムだが、必要のない建物になるかもしれない」

 コンフェデ杯をたたえる声が多く聞こえてくる。私も楽しく快適に過ごすことができて大いに満足している。しかし、実際に私が見たのは、ロシアの素晴らしい部分だけ。どこの町も観光地(もしくはリゾート地)として最高だからファンの受け入れも心得たものだった。だが、コンフェデ杯の成功は、W杯の不安をカモフラージュしてしまったのではないかと私は思っている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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