気付けば、欧州屈指のフットボールシティ コンフェデ杯都市探訪<モスクワ篇>
8年ぶりのモスクワで変わったものと変わらないもの
スパルタク・スタジアムはスパルタク・モスクワのクラブカラーである赤と白に統一され、周囲の緑と青空に心地よく溶け込んでいる 【宇都宮徹壱】
もっとも、いくら表層が変わったとしても、根っこの部分はあまり変わらないものだ。街中を歩いていると、相変わらず喫煙者が多いし、びっくりするくらい英語が通じない(そのくせ外国人だと分かっているのにロシア語でまくし立ててくる)。そしてつくづく「ああ、モスクワに来たんだな」と実感させられるのが、警察官の多さと警備の厳しさである。ロシアをはじめとする旧ソ連諸国では、フットボールの試合になると過剰なまでに警察官が動員される。21日(現地時間)にスパルタク・スタジアムで開催された、ロシア対ポルトガルの試合でも、地下鉄の最寄り駅からスタジアム内に至るまで、警察官がびっしり配備され、空港のセキュリティーのような入念な荷物チェックが行われていた。
今回、久々にモスクワを訪れたのは、6月17日に開幕したFIFAコンフェデレーションズカップ・ロシア2017(以下、コンフェデ杯)を取材するためである。といっても、残念ながら今大会に日本代表は出場しない(アジア王者として参加しているのはオーストラリア)。よって、大会を最初からカバーする必要もないし、特定のチームを追いかけることも考えていない。今大会は、サンクトペテルブルクでの開幕戦(ロシア対ニュージーランド)を自宅でテレビ観戦して、19日からモスクワに入ることにした。試合そのものよりも、ワールドカップ(W杯)開催を1年後に控えた各開催都市の現状を見ておくことが、今回の取材の主目的である。よって当連載も、コンフェデ杯の開催都市(モスクワ、カザン、ソチ、サンクトペテルブルク)ごとに、現地の状況をお伝えすることにしたい。
したたかなポルトガルとナイーブなロシア
ロシアvs.ポルトガルはクリスティアーノ・ロナウドがゴールを決めたポルトガルが1−0で勝利した 【写真:ロイター/アフロ】
ニュージーランドとの初戦に2−0で勝利したロシアが、この日対戦するのは欧州チャンピオンのポルトガル。来年のW杯開催国ゆえに予選が免除され、ここ数年は公式戦から遠ざかっていたロシアとしては、現時点での実力を図る絶好の機会である。ウイークデーの18時キックオフという試合にもかかわらず、会場にはほぼ満員の4万2759人もの観客が詰め掛けた。圧倒的なホームの雰囲気が支配するなか、先制したのはアウェーのポルトガル。前半8分、左サイドバックのラファエル・ゲレイロがクロスを供給すると、これをクリスティアーノ・ロナウドがヘディングで競り勝ってネットを揺らす。C・ロナウドは32分にも右サイドからドリブルで持ち込み、きわどいシュートを放ったものの、見せ場はそこまで。シーズンの疲れからか、後半は精彩を欠いたプレーが目立った。
さて、前半は沈黙を強いられたロシアであったが、相手よりも1日休みが多いアドバンテージを生かして次第に攻勢に出る。ハーフタイムから相次いで攻撃的な選手を送り込み、後半20分を過ぎてからは相手陣内で何度となくチャンスを演出。しかしポルトガルは、最後までしたたかだった。そしてロシアは、最後のツメの部分であまりにもナイーブであった。結局、ロナウドの1ゴールを守り切って、ポルトガルが逃げ切りに成功。敗れたロシアのチェルチェソフ監督は試合後に「ロナウドひとりにやられてしまった」と語っていたが、それ以前にユーロの時から両者の力の差がまったく縮まっていていないのは明らかであった。2試合を終えて3位のロシアが自力でグループリーグを突破するためには、首位のメキシコに勝利しなければならない。今大会の結果次第では、監督人事に新たな動きがあるかもしれない。