気付けば、欧州屈指のフットボールシティ コンフェデ杯都市探訪<モスクワ篇>

宇都宮徹壱

8年ぶりのモスクワで変わったものと変わらないもの

スパルタク・スタジアムはスパルタク・モスクワのクラブカラーである赤と白に統一され、周囲の緑と青空に心地よく溶け込んでいる 【宇都宮徹壱】

 ロシア連邦の首都・モスクワを訪れるのは2009年以来だから、実に8年ぶりのことである。さらにその前に訪れたのは、21世紀になったばかりの01年なので、これまた8年ぶり。ヨーロッパの街並みが、たった8年で様変わりすることは、よほどのことでもない限りあり得ない。が、ここモスクワに関しては例外だ。訪れるたびに、街並みがおしゃれになり、人々の装いも華やいだものになり、お店の商品は豊かなもので溢れている。8年前にはほとんど見かけなかったスマートフォンも、今ではこの国の人たちにとっても必需品。トベルスカヤ通りを闊歩(かっぽ)する、豊かな時代しか知らないロシアの若者たちの姿を見ていると、隔世の感を抱かずにはいられない。

 もっとも、いくら表層が変わったとしても、根っこの部分はあまり変わらないものだ。街中を歩いていると、相変わらず喫煙者が多いし、びっくりするくらい英語が通じない(そのくせ外国人だと分かっているのにロシア語でまくし立ててくる)。そしてつくづく「ああ、モスクワに来たんだな」と実感させられるのが、警察官の多さと警備の厳しさである。ロシアをはじめとする旧ソ連諸国では、フットボールの試合になると過剰なまでに警察官が動員される。21日(現地時間)にスパルタク・スタジアムで開催された、ロシア対ポルトガルの試合でも、地下鉄の最寄り駅からスタジアム内に至るまで、警察官がびっしり配備され、空港のセキュリティーのような入念な荷物チェックが行われていた。
 
 今回、久々にモスクワを訪れたのは、6月17日に開幕したFIFAコンフェデレーションズカップ・ロシア2017(以下、コンフェデ杯)を取材するためである。といっても、残念ながら今大会に日本代表は出場しない(アジア王者として参加しているのはオーストラリア)。よって、大会を最初からカバーする必要もないし、特定のチームを追いかけることも考えていない。今大会は、サンクトペテルブルクでの開幕戦(ロシア対ニュージーランド)を自宅でテレビ観戦して、19日からモスクワに入ることにした。試合そのものよりも、ワールドカップ(W杯)開催を1年後に控えた各開催都市の現状を見ておくことが、今回の取材の主目的である。よって当連載も、コンフェデ杯の開催都市(モスクワ、カザン、ソチ、サンクトペテルブルク)ごとに、現地の状況をお伝えすることにしたい。

したたかなポルトガルとナイーブなロシア

ロシアvs.ポルトガルはクリスティアーノ・ロナウドがゴールを決めたポルトガルが1−0で勝利した 【写真:ロイター/アフロ】

 ロシア代表の試合を観戦するのは、昨年のユーロ(欧州選手権)2016以来であった。この大会のロシアは、グループリーグを1分け2敗の最下位という、さんざんな結果で終えている。この時チームを指揮していたレオニード・スルツキーは、同大会の予選で苦戦していたファビオ・カペッロの後任として、CSKAモスクワの監督と兼任という形でチームを率いていた。大会後、自国でのW杯に向けて再び世界的な名将を招くのかと思ったら、ロシア人のスタニスラフ・チェルチェソフが新監督に就任。国内やポーランドではそこそこ実績のある指導者だが、正直なところ「本当にこの人でいいの?」という疑念は否めない。ちなみに今回のロシア代表23名は、全員が国内リーグの所属。極めてドメスティックなチームである。

 ニュージーランドとの初戦に2−0で勝利したロシアが、この日対戦するのは欧州チャンピオンのポルトガル。来年のW杯開催国ゆえに予選が免除され、ここ数年は公式戦から遠ざかっていたロシアとしては、現時点での実力を図る絶好の機会である。ウイークデーの18時キックオフという試合にもかかわらず、会場にはほぼ満員の4万2759人もの観客が詰め掛けた。圧倒的なホームの雰囲気が支配するなか、先制したのはアウェーのポルトガル。前半8分、左サイドバックのラファエル・ゲレイロがクロスを供給すると、これをクリスティアーノ・ロナウドがヘディングで競り勝ってネットを揺らす。C・ロナウドは32分にも右サイドからドリブルで持ち込み、きわどいシュートを放ったものの、見せ場はそこまで。シーズンの疲れからか、後半は精彩を欠いたプレーが目立った。

 さて、前半は沈黙を強いられたロシアであったが、相手よりも1日休みが多いアドバンテージを生かして次第に攻勢に出る。ハーフタイムから相次いで攻撃的な選手を送り込み、後半20分を過ぎてからは相手陣内で何度となくチャンスを演出。しかしポルトガルは、最後までしたたかだった。そしてロシアは、最後のツメの部分であまりにもナイーブであった。結局、ロナウドの1ゴールを守り切って、ポルトガルが逃げ切りに成功。敗れたロシアのチェルチェソフ監督は試合後に「ロナウドひとりにやられてしまった」と語っていたが、それ以前にユーロの時から両者の力の差がまったく縮まっていていないのは明らかであった。2試合を終えて3位のロシアが自力でグループリーグを突破するためには、首位のメキシコに勝利しなければならない。今大会の結果次第では、監督人事に新たな動きがあるかもしれない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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