羽生結弦、壁の先にある答えを探して 挑戦し続けたソチ五輪以降の3年間

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新たな武器となった4回転ループ

16−17シーズンから4回転ループに挑戦。終盤戦はGOEでも高評価を得るなど、羽生にとって新たな武器となった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 翌16−17シーズン、羽生は新たなチャレンジに身を置く。それが4回転ループをプログラムに取り入れることだった。これまで公式戦では誰も成功させたことがないジャンプ。折りしも15−16シーズンから、男子フィギュアスケート界は空前の“4回転時代”に突入した。中国の金博洋が4回転ルッツを跳び、宇野昌磨(中京大)も史上初めて4回転フリップを成功させている。「自分の限界に挑戦していきたい」と語っていた羽生が、平昌五輪の前シーズンに新たなジャンプを取り入れるのは、いわば必然だった。

 そしてシーズン初戦となったオータム・クラシックで、いきなりその新技を決めてみせる。その後、序盤戦はやや不安定だったものの、シーズンが深まるにつれて完成度を上げていき、終盤にはGOE(技の出来栄え点)でも2点台と高評価を得る武器となった。

 ただ一方で、前シーズンにマークした300点超えは羽生にとって、プレッシャーにもなっていたようだ。16年11月のNHK杯で約1年ぶりに300点超えを果たしたときの第一声は「正直ホッとした」だった。

「去年はただ単純にうれしかったんですけど、今回はホッとしたのが強いです。自分の中で完璧にやらなければいけないとかいろいろな思いがあったんだと思います。だからこそホッとしたのかなと」

 シーズン通して、4回転サルコウ+3回転トウループのコンビネーションでミスが相次ぎ、「もはや苦手意識すらある」と語ったショートは一度も完璧な演技ができなかった。全日本選手権はインフルエンザのため欠場し、今年2月の四大陸選手権では17歳のネイサン・チェン(米国)に及ばず2位に甘んじた。それでも世界選手権ではフリーの自己ベストを更新(223.20点)。苦しみながらも、着実に壁を乗り越えてきた。

「今、スケートが楽しい」

「今、スケートが楽しい」と羽生は言う。王者としての重圧は感じながらも、ハイレベルな争いに身を置き、モチベーションを高めているようだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 16−17シーズンの最終戦となった国別対抗戦で、羽生は再び史上初の快挙を成し遂げる。フリーの演技後半に3本の4回転を着氷させたのだ。基礎点が1.1倍になるとはいえ、スタミナが消費される後半に4回転を多く組み込むことは、リスクが伴う。だがそれを恐れず、果敢にチャレンジしたことで、羽生は新たな次元へと足を踏み入れた。

「今回の目標として、挑戦するという気持ちを強く持っていました。自分に課していたことは、後半の4回転サルコウと、4回転トウループ2本をしっかり決めること。また、世界選手権では偶然入れたゾーンに、今回はコントロールしてそこに入ろうと試みて、その状態でフリーの演技をできたんじゃないかと思います」

 ソチ五輪での金メダル獲得から約3年半が経過した。五輪王者、世界王者となり、トップを走り続ける重圧は計り知れない。挑戦には常に苦しみが伴う。それでも羽生は「今、スケートが楽しい」と言う。

「『なんで練習してきていることはこんなに実を結ばないんだろうな』という気持ちに駆られることはあります。でも、やっぱりこれだけみんな難しいことにチャレンジして、なおかつ演技をまとめなければいけないというハイレベルな戦いをしているからこそ、練習が楽しいし、モチベーションも高くなっていくんだと思います」

 連覇が懸かる平昌五輪まであと約7カ月。そのわずかな時間でも、羽生はスケートを楽しみながら、新たなチャレンジを続けていくのだろう。壁の向こうに見えるものは何なのか。その答えを探して。

(文:大橋護良/スポーツナビ)

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