桐生、山縣が表彰台を逃した理由 “9秒台”への期待が歯車を狂わせた
注目された男子100メートルを制したのはサニブラウン(右)。2位に多田(右から2人目)、3位にはケンブリッジ(左)が入った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
陸上の第101回日本選手権第2日が24日、大阪・ヤンマースタジアム長居で行われ、この日の最終種目となった男子100メートル決勝では、サニブラウンが10秒05(追い風0.6メートル)の大会タイ記録で優勝。この結果、今夏に開催される第16回世界選手権ロンドン大会(8月4日開幕)の代表内定を勝ち取った。
桐生の敗因は1人で9秒台を背負い過ぎた?
桐生は日本選手権にピークを合わせられず4位と表彰台を逃してしまった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
この日の総括として、日本陸上競技連盟の伊東浩司強化委員長はこう話を切り出した。
昨年行われたリオデジャネイロ五輪の男子4×100メートルリレーで銀メダルを獲得した山縣亮太(セイコー)、飯塚翔太(ミズノ、男子100メートルは欠場)、桐生祥秀(東洋大)、ケンブリッジ飛鳥(Nike)が今季、世界選手権の参加標準記録(10秒12)を突破。さらに追い風参考ながら今季9秒94を出した新星・多田修平(関西学院大)も頭角を現し、日本選手権では過去最高とも呼べるハイレベルなメンバーが決勝の舞台にそろった。
その中でどうしても注目されるのが日本記録の更新、日本人初の“9秒台”だった。1998年に現強化委員長の伊東が10秒00を記録してから19年近く。打ち崩せないままでいる“10秒の壁”は、13年4月の織田記念国際陸上(広島)で10秒01という日本歴代2位の記録を桐生が打ち出して以降、常に意識されるものとなっていた。
しかし期待されればされるほど、その壁は厚くて高く、突破できないでいるのが現状で、特にその壁に悩まされているのが、一番近くにいるはずの桐生であることは間違いないだろう。レースの際は必ず「9秒台を出せるか」と質問され、知らず知らずのうちにプレッシャーをかけられる。常とう句のように「自分の走りができれば、結果はついてくる」と語るも、どこか自らが「最初に9秒台を出さなければいけない」という気持ちがあったのではないか。
伊東強化委員長も「1人で9秒台というのを背負い過ぎたのかなと。今季は向かい風で10秒0台を出して期待がかかり、かわいそうな気持ちもあった。伸び伸びとした彼の走りの良さが出せなかったことが、反省点だと思う」と話している。
五輪翌年の難しさ ピークを合わせられず
負傷の影響もあり、6位に終わった山縣。本来の調子とは程遠かった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
この結果にショックが大きかったのか、レース後は「すぐには振り返れない」と茫然(ぼうぜん)自失。「僕自身、(世界選手権の)代表に入ってしっかり走るというのが今年の目標だったので、その目標の手前でつまずいてしまった。甘く見ていたわけではないが、ここでしっかり3番以内に入って、世界選手権まで1カ月あると思って練習し、先のことばかり気にして走っていたのかも」と、日本選手権にピークを合わせられなかったことを悔やんだ。
その意味では、10秒39で6位に終わった山縣も右足首の痛みで出遅れてしまったことが今回の結果につながってしまった。日本選手権の開幕前日会見でケガからの回復自体はアピールしていたが、「久しぶりの試合ということもあって、楽しみというよりは、不安や緊張がある」と精神的に好調であるとは言えず。そして初日の予選では10秒24、準決勝は10秒31と、他の選手が好記録を連発する中、平凡なタイムに終わり、調子を上げられずにいた。結局、決勝でもタイムを落とすことになり、世界選手権出場はほぼ絶望的となった。
またもう1人の銀メダリストであるケンブリッジに関しては、10秒18の3位で表彰台に上ることはできた。しかしレース後は右太もも裏に違和感が出たため、喜びを語ることなく、すぐに会場を後にした。
3人に共通して言えるのは、日本選手権にピークを合わせられなかったことだろう。その点について伊東強化委員長は「世界を見ても、五輪後は記録が下がり気味だという傾向がある。彼らはメダリストということで、ある一定のところまで戦い、本来なら当然、結果が落ちる時期だが、桐生くんも山縣くんも(好調を)維持しつつ、レースに出続けていた。正直、(日本選手権の結果は)残念なところはあるが、世界を見ても、タイソン・ゲイ選手が全米選手権で予選落ちしていることもあり、五輪翌年というのを痛感している」と今回の結果を分析した。