桐生、山縣が表彰台を逃した理由 “9秒台”への期待が歯車を狂わせた

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サニブラウンと多田の共通点は

サニブラウン(左)と多田に共通していたのは、日本選手権で好成績を残すことに集中できていた点。プレッシャーもそれほど感じていなかったようだ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 ピークを合わせるという点で見ると、優勝したサニブラウンについて、伊東強化委員長は「予選、準決勝、決勝というラウンド制をすごく上手に駆け上がっていったなという印象」と語る。初日の予選、準決勝を10秒06の自己ベストでそろえ、さらに2日目の決勝の前に行われた男子200メートル予選でも、きっちりと組1位となる20秒61で走り、日本選手権の期間中にピークを合わせていた。

 また決勝レース前の心境についてサニブラウンは「10秒0台が(自分以外に)4人もいて、レース前は楽しみで、ワクワクしている気持ちが止まらなかった」と日本屈指のスプリンターたちと競えることに気持ちを高ぶらせ、精神的にも良い状態で迎えることができていた。

 レース自体は、スタートのリアクションタイムが出場8人中一番遅く、出遅れた部分もあったが、今季改善している最初の3、4歩での加速がうまくはまり、立て直しに成功。「スタートがうまく切れれば9秒台かなというのはあった。もったいないレースだったなと。悔しさも残る」と口にしたが、「ここは通過点として考えていたので、世界選手権で良い結果が残せるように練習を積んでいきたい」と意気込んだ。

 2位に入った多田も「予選の方が緊張していて、決勝の方が軽い気持ちだった。楽しんで走ろうということを心掛け、負けて悔しいけど最低条件はクリアできた」と話す。

 2人に共通していたのは、「世界選手権に出たい」という意志が強く、日本選手権で好成績を残すということに集中できていたこと。それが表彰台に上がれた要因とも言えるだろう。

東京五輪に向けてさらなる底上げを

新星たちとリオ五輪メンバーの明暗が分かれた今大会。しかし、見据えるのはあくまで2020年だ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 今回の結果により、サニブラウンが代表内定、多田とケンブリッジが個人種目の選考に挙げられることになった。リレーに関しては最終日の男子200メートルの結果にもよるが、リオ五輪のチームから大きく変更される可能性も出てきた。

 それでも伊東強化委員長は「目の前の大会だけにとらわれず、2020年に向けて、次の世界選手権(19年、ドーハ)では、この5人にプラスして次に誰が出てくるかは分からないが、その選手が高い次元で戦っていることが理想だと思う。いろいろな考えがあっていい」と、あくまで東京五輪での活躍を最終目的としている。

 さらに「東京五輪まで時間があるようでないので、ロンドンではしっかりとチームとして仕上げる。来年のアジア大会では、カタールや中国勢といった世界のファイナルに残る選手がいるので、そことどう戦うかがテーマになる。そして19年のドーハである程度のポジションを取らなければ、本番は厳しいと思うので、東京で戦っていけるように頑張っていってほしい」と続けた。

 今回の日本選手権では、リオ五輪メンバーと新星たちの間に明暗が分かれた。それでも「世界と戦う」という経験値で見ると、圧倒的に前者の方が優位な立場にある。サニブラウン、多田ら伸び盛りの選手が、ロンドンの舞台で活躍することがあれば、先輩たちも負けていられないという気持ちが芽生えるはず。その中で切磋琢磨(せっさたくま)し、東京五輪へと向かえば、日本の短距離陣は底上げされ、世界と同等に戦えるレベルまで上がっていくだろう。

 その途中で、日本にとっての“10秒の壁”は、いつの間にか取り払われているはずだ。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)

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