桐生、山縣が表彰台を逃した理由 “9秒台”への期待が歯車を狂わせた
サニブラウンと多田の共通点は
サニブラウン(左)と多田に共通していたのは、日本選手権で好成績を残すことに集中できていた点。プレッシャーもそれほど感じていなかったようだ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
また決勝レース前の心境についてサニブラウンは「10秒0台が(自分以外に)4人もいて、レース前は楽しみで、ワクワクしている気持ちが止まらなかった」と日本屈指のスプリンターたちと競えることに気持ちを高ぶらせ、精神的にも良い状態で迎えることができていた。
レース自体は、スタートのリアクションタイムが出場8人中一番遅く、出遅れた部分もあったが、今季改善している最初の3、4歩での加速がうまくはまり、立て直しに成功。「スタートがうまく切れれば9秒台かなというのはあった。もったいないレースだったなと。悔しさも残る」と口にしたが、「ここは通過点として考えていたので、世界選手権で良い結果が残せるように練習を積んでいきたい」と意気込んだ。
2位に入った多田も「予選の方が緊張していて、決勝の方が軽い気持ちだった。楽しんで走ろうということを心掛け、負けて悔しいけど最低条件はクリアできた」と話す。
2人に共通していたのは、「世界選手権に出たい」という意志が強く、日本選手権で好成績を残すということに集中できていたこと。それが表彰台に上がれた要因とも言えるだろう。
東京五輪に向けてさらなる底上げを
新星たちとリオ五輪メンバーの明暗が分かれた今大会。しかし、見据えるのはあくまで2020年だ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
それでも伊東強化委員長は「目の前の大会だけにとらわれず、2020年に向けて、次の世界選手権(19年、ドーハ)では、この5人にプラスして次に誰が出てくるかは分からないが、その選手が高い次元で戦っていることが理想だと思う。いろいろな考えがあっていい」と、あくまで東京五輪での活躍を最終目的としている。
さらに「東京五輪まで時間があるようでないので、ロンドンではしっかりとチームとして仕上げる。来年のアジア大会では、カタールや中国勢といった世界のファイナルに残る選手がいるので、そことどう戦うかがテーマになる。そして19年のドーハである程度のポジションを取らなければ、本番は厳しいと思うので、東京で戦っていけるように頑張っていってほしい」と続けた。
今回の日本選手権では、リオ五輪メンバーと新星たちの間に明暗が分かれた。それでも「世界と戦う」という経験値で見ると、圧倒的に前者の方が優位な立場にある。サニブラウン、多田ら伸び盛りの選手が、ロンドンの舞台で活躍することがあれば、先輩たちも負けていられないという気持ちが芽生えるはず。その中で切磋琢磨(せっさたくま)し、東京五輪へと向かえば、日本の短距離陣は底上げされ、世界と同等に戦えるレベルまで上がっていくだろう。
その途中で、日本にとっての“10秒の壁”は、いつの間にか取り払われているはずだ。
(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)