C・ロナウドの退団騒動がもたらす波紋 レアル・マドリーはどう動くべきか?

脱税容疑をかけられているC・ロナウド

スター選手が実際に服役することはまずあり得ないが、もし有罪判決を受ければ1年から5年の禁固刑が処されるほどの重罪に問われている 【Getty Images】

 クリスティアーノ・ロナウドは忍耐力のあるタイプではない。その彼が我慢の限界を迎え、スペイン税務当局との問題を理由に移籍を決意した場合、その穴埋めとなり得るものはごくわずかしか存在しない。レアル・マドリーで5期目の政権をスタートさせたばかりのフロレンティーノ・ペレス会長は、そのことをよく理解している。

 リーガ・エスパニョーラとチャンピオンズリーグ(CL)を制した素晴らしいシーズンを終えて間もなく、C・ロナウドはポルトガル代表の一員として、ロシアでコンフェデレーションズカップに出場している。その傍ら、彼は2011年から14年にかけて1470万ユーロ(約18億3000万円)超の脱税を犯したという容疑をかけられた。

 フットボール界のスター選手が実際に服役することはまずあり得ない。だが彼は、もし有罪判決を受ければ1年から5年の禁固刑が処されるほどの重罪に問われているのだ。

 マドリー地方検察庁がポスエロ・デ・アラルコンの治安判事裁判所に対して調査を行ったC・ロナウドの脱税容疑は、彼が毎年バロンドール争いを繰り広げているライバル、リオネル・メッシのケースと比較されている。

 メッシは07年から09年にかけて、3年にわたり計410万ユーロ(約5億円)の脱税を犯したとして、禁固刑21カ月の判決を受けた。だがC・ロナウドが追求されている内容はさらに重大なものだ。C・ロナウドが脱税したとされる金額はメッシのそれをはるかに上回る。成人する前からスペインに居住していたメッシは52パーセントの所得税率をかけられているのに対し、C・ロナウドの税率は24.75パーセントにすぎないにもかかわらず、である。

情報が飛び交うも、かたくなに沈黙を貫く

かたくなに沈黙を保ちながら、コンフェデレーションズカップの戦いに全神経を集中させている 【Getty Images】

 ここで問いたいのは、この脱税容疑がC・ロナウドに移籍を検討させた最大の理由なのかどうか、ペレス会長との対立も問題の中の1つにすぎないかどうかだ。もしくは税制に精通している代理人のジョルジュ・メンデスが、過剰な支払いを避けるべく下した決断だと考えることもできる。

 レアル・マドリーとポルトガル代表におけるC・ロナウドの同僚であり、友人でもあるペペの退団には、このケースと共通した点がいくつも見られる。レアル・マドリーは自身のキャリアを成功に導いてくれたクラブであるにもかかわらず、ペペは非常に後味の悪い形でクラブを出ていった。しかも彼がクラブに対して抱いている怒りはC・ロナウドと同様に、あまりに大げさな印象を受ける。

 2人はいずれも、クラブが自分たちを擁護するためにベストを尽くさなかったと感じている。確かにC・ロナウドが脱税容疑で起訴された際にクラブが出した公式声明を見ても、メッシに同様なことが生じた際にバルセロナのジョセップ・マリア・バルトメウ会長が出したそれと比べると、生ぬるいもののように感じられる。

 さまざまな情報が飛び交う中、C・ロナウドはかたくなに沈黙を保ちながら、コンフェデレーションズカップでの戦いに全神経を集中させている。メキシコとの初戦ではゴールこそなかったものの1アシストを記録。ホスト国ロシアとの第2戦では決勝点を決め、2試合連続でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。

 彼の沈黙はプレーに集中したいという意思の表れとも取れるが、周囲の憶測を掻き立て、この厄介なテーマを議論させようという戦略だと解釈することもできる。

レアル・マドリーにとっては“激動の夏”に?

古巣であるマンチェスター・ユナイテッド復帰の可能性も報じられている 【Getty Images】

 問題はこの件について、レアル・マドリーがどう動くべきかだ。C・ロナウドの脱税問題が深刻化している現状もあり、クラブは時の人となっているモナコの新星キリアン・ムバッペの獲得を急ぐ方が得策だと考えるかもしれない。

 アルバロ・モラタの移籍が確実視され、C・ロナウドの退団騒動もこじれている状況下、ヨーロッパ中のビッグクラブが注目しているフランス人FWの獲得競争でレアル・マドリーが素早い動きを見せるとしても不思議はない。ムバッペはそのプレーを見る限り、C・ロナウドの理想的な後継者となり得るだけでなく、新時代を築いて過去を忘れさせられるほどのポテンシャルを秘めている。もちろん、両者がそろえばスペクタクルな攻撃陣が実現することは間違いないのだが。

 C・ロナウドはレアル・マドリーファンのアイドルであり、フットボール史を代表する偉大なストライカーである。その彼が理想的とは言い難いこのタイミングでクラブを出て行った場合、経済的、戦力的に受ける影響の大きさは計り知れない。

 古巣であるマンチェスター・ユナイテッドに復帰する可能性もあれば、パリ・サンジェルマン(PSG)行きの話もある。今季のCLでバルセロナ相手に歴史的な大逆転を許したPSGは、ファンの希望を取り戻すためにも、C・ロナウドのようなスター選手を必要としている。

 C・ロナウドを失った場合、レアル・マドリーは欧州の勢力図において経済的、戦力的にどの位置につけるのか――。その問いに答えるのは難しいが、今オフはビッグネームの移籍と対立的状況に溢れた“激動の夏”となることは間違いない。

 いずれにせよ、C・ロナウドのレアル・マドリー退団ほど、フットボール界を揺るがす重大な出来事が生じることはまずないだろう。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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