全日本男子の新たな挑戦と、高まる期待 速さと高さが共存するバレーを目指して

田中夕子

21歳のオポジット、大竹壱青らを積極起用

オポジットで起用された大竹壱青(右)。粗さも目立ったが、パワーを生かしたスパイクで得点を重ねた 【坂本清】

 新たなチャレンジ。それは戦術だけでなく、代表初選出のセッター藤井やこれまで代表での出場経験がほとんどない選手の積極的な起用も含まれる。その象徴が21歳のオポジット、大竹壱青だ。

 中央大学でもオポジットに入り、5月に開催された東アジア地区選手権でもMVPを獲得するなど、攻撃力の高さには定評がある大竹だが、シニア代表としては未知数。「(ブロックを)抜けると思う時は思い切りクロスへたたきつけた」と言うように、パワーを生かしたスパイクで得点を重ねる一方、相手のブロックが2枚、3枚そろった場面で攻め切れず、中途半端なフェイントで相手に得点を献上するなど、粗さも目立った。

 オポジットとして、将来が期待される存在ではあるが、現時点ではまだ技術も経験も足らない。だが、試合を重ねるたびに成長を遂げているのも確かで、大竹も課題と手応えのどちらも実感している。

「(スロベニア戦の)最後の柳田さんの連続サービスエースとかを見ると、『うわーすげーな、自分もああならなきゃ』と思うんです。まだ苦手なことも多いし、試練の連続だけれど、最後の1点を託されて、ちゃんと決められるような選手になりたいです」

 ワールドリーグの高崎ラウンドでは、サイドの柳田、石川祐希、山田が高い攻撃力を発揮し、ミドルの打数や決定本数も多かったため、大竹だけにマークが偏る状況もなかった。特に韓国戦は持ち前のパワーを生かし、ブロックを弾き飛ばす場面も目立った。チームは今後、スピードアップをテーマに掲げており、高さを生かしながらも速さにどう対応するのか。大竹にとっては課題であると同時に、成長を遂げるためのステップになりそうだ。

今後はスピードアップが必要

今後はスピードアップに取り組む。速さと高さをいかに共存させられるか 【坂本清】

 もちろん課題があるのは大竹だけではない。より強烈なサーブを武器とするチームや、システム化されたブロック力に長けたチームとの対戦した時にも、日本は同じ展開で戦うことができるのか。ブロックに関しても、リードブロックが軸であるにもかかわらず、ミドルやサイドのブロッカーが相手のトスが上がる前に跳んでしまい、ブロックにつけずに1枚やノーマークの状況をつくってしまったため、思い通りに決められる状況も少なくなかった。

 さらに前述のように、ブランコーチからはスピードアップが要求されており、「今後は速さにチャレンジしなければならない」と多くの選手が口をそろえる。単純にトスのスピードを速くすれば、メリットだけでなくリスクも伴うため、速さと高さをいかに共存させられるかも今後を占う大きなテーマと言えそうだ。

高崎ラウンドで見せた全日本男子の新たなバレーに、期待が高まる 【坂本清】

 新体制のスタート年とはいえ、今季は来年の世界選手権出場を懸けたアジア最終予選が7月に開催され、イタリア、ブラジル、米国などまさに世界のトップと言うべき国々が集うワールドグランドチャンピオンズカップが9月に行われる。

 東京五輪へ向けた成長過程の中で、結果も問われる1年。その道のりはきっと、簡単なものではない。

 だが、高崎ラウンドで見せた新たな挑戦と、高まる期待――。紆余曲折を経て、ようやく日本男子バレーの強化が始まろうとしているのは間違いない。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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