アメリカズカップへの挑戦終えた日本 レジェンドつないだ17年ぶりバトン

中山智
「日本と、日本のセーラー(船乗り)がアメリカズカップに復帰するためのとても大きなきっかけになる」

 2015年4月にソフトバンク・チーム・ジャパンが第35回アメリカズカップの挑戦を表明した際、チームの総監督を務める早福和彦はそう宣言した。

 早福は、日本が最後にアメリカズカップに参加した2000年の第30回大会にクルーとして出場し、今なお現役として活動していたレジェンドとも言えるセーラー。日本のセーリング界において、早福だけが17年間という空白を埋めることができる唯一の人物だった。

ソフトバンク・チーム・ジャパン、約2年間の挑戦終える

チームは敗れたが、日本人として17年ぶりに「アメリカズカップセーラー」となった笠谷勇希(左)、吉田雄悟(右)。中央は早福和彦総監督 【写真は共同】

 3カ月の短い準備期間ののち、ソフトバンク・チーム・ジャパンは世界各地を転戦し全9戦が行われた前哨戦のワールドシリーズに参加。通算成績は6チーム中5位ではあったが、後半は連続で表彰台に立つなど徐々にチームが完成していく様子がうかがえた。

 その後、全チームが集まったのが第35回アメリカズカップの大会開催地バミューダ。5月27日、戦いはまず参加6チームが総当たりのマッチレースを2回行なうクオリファイヤーズから始まった。ここで前回の優勝チームでカップを保持しているオラクル・チーム・USA(米国)を除く5チームのなかから、最下位が脱落となる。

 このクオリファイヤーズをソフトバンク・チーム・ジャパンは3勝7敗、全体5位で通過。ただし勝ち星の3勝のうち2勝は6位で脱落したグルパマ・チーム・フランスからあげたもので、上位チームとの差を感じさせる結果だった。

 クオリファイヤーズ終了後、オラクル・チーム・USAに挑戦するチームを決めるトーナメント方式のプレーオフがスタート。クオリファイヤーズで1位となったエミレーツ・チーム・ニュージーランドは、1位通過の権利としてセミファイナルの相手にランドローバー・BAR(英国)を指名。ソフトバンク・チーム・ジャパンはアルテミス・レーシング(スウェーデン)との対戦となった。

 アルテミス・レーシングは、僅差だったとはいえクオリファイヤーズで2連敗を喫した相手。5勝先取方式のプレーオフ・セミファイナルも厳しいレースが予想されたが、前半2日間を終えてソフトバンク・チーム・ジャパンが3勝1敗とリード。このままの勢いでファイナル進出もあるかと思われたが、後半のレースで4連敗となり、トータル3勝5敗でプレーオフ・セミファイナル敗退。

「ニッポンチャレンジ」として参加した過去3回の大会と同様、挑戦艇選出レースの準決勝敗退という結果で、約2年間続いたソフトバンク・チーム・ジャパンの挑戦は終わった。

結果を分けた経験の差

大会前に、本番と同じバミューダの海域を疾走するソフトバンク・チーム・ジャパン 【写真は共同】

 クオリファイヤーズとプレーオフ・セミファイナルを通して、防衛艇のオラクル・チーム・USAとファイナルに進出したエミレーツ・チーム・ニュージーランド、アルテミス・レーシングはミスをしない完成した走りをレースで展開していた。

 この3チームは前回大会から引き続き参加しており、水中翼でフォイリング(海面を飛ぶように進むこと)するカタマラン(双胴艇)について、操船テクニックだけでなくメンテナンスなどバックアップする部隊の技術や知識などにも一日の長がある。

 一方、ソフトバンク・チーム・ジャパンは、好スタートから先行し有利なレース展開をするも、タックやジャイブの方向転換やマークの回航でミスをして逆転を許すシーンが見られた。

 ソフトバンク・チーム・ジャパンはスキッパー(艇長)にディーン・バーカー、タクティシャン(戦術家)にクリス・ドレーパーなど、複数の重要なポジションに前回大会への参加経験を持つメンバーを配置している。

 しかしレース後、早福総監督は「完成度という点ではいまひとつ足りない部分があった」と語った。参加6チーム中最後に挑戦を表明した時間のなさが、17年ぶりという「空白」を埋め切れず、過去に参加した大会以上の成績をあげられなかったというわけだ。

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著者プロフィール

1974年生まれ。本業はITやモバイル業界をメインに取材・執筆をしているフリーライター。海外取材も多く、気になるイベントはフットワーク軽く出かけるのがモットー。大学在学中はヨット部に所属し、卒業後もコーチとしてセーリング競技に携わっている。アメリカズカップのリポートをとおして、セーリング競技に馴染みのない人たちへヨットの認知度アップを狙っている

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