アメリカズカップへの挑戦終えた日本 レジェンドつないだ17年ぶりバトン

中山智

新たに生まれた2人の日本人セーラー

 結果として「空白」は埋めきれなかったが、残されたパーツを埋めていくためのバトンはつながっている。ワールドシリーズでは全戦、早福自らがクルーとして艇に乗り込んでいたが、クオリファイヤーズからはクルーの公募からチームに加わった吉田雄悟、笠谷勇希が乗船。17年ぶりに日本人のアメリカズカップセーラーが2人誕生した。

 クオリファイヤーズからは使用する艇のサイズがAC45からACCと大きくなり、操船技術もさることながら、よりフィジカル面がクルーに要求される。早福は参加全チームの選手のなかでも最年長の51歳。吉田、笠谷と同じくトレーニングは続けていたが、早福がレースで乗船することはなく、より勝算の高いチーム戦略として若い両名にバトンが渡ったことになる。

 実はこのバトンもつながらない可能性があった。今大会のクルーの公募には100人ほどのエントリーがあったが、ニッポンチャレンジとして参加していた17年前は7倍の700人ほど。当時とは状況も大きく違うが、日本セーリング界自体が大きく停滞していたのも事実。

 もし今回ソフトバンク・チーム・ジャパンが参加を表明せず、早福が現役を引退していたら、このバトンを受け渡せたかどうか。その意味では、挑戦表明時に早福が宣言した「日本と、日本のセーラー(船乗り)がアメリカズカップに復帰するためのとても大きなきっかけになる」という意義は達成されたと言える。

「終わりではなく、新しい挑戦のスタート」

2年後の2019年に予定されている次回大会へ向けて、早福の意欲は十分だ 【Getty Images】

 アメリカズカップはこれまで、全レース終了後に優勝チームがメーンとなって、次回大会開催についてのプロトコルを発表していた。しかし今回はすでに第36回大会の概要が発表されており、第35回と同じく世界を転戦するワールドシリーズを含めた大会が2019年に予定されている。

 これは最終的な決定ではなく、優勝したチームによっては大きく変わる可能性もあるが、プレーオフで敗退したランドローバー・BARはレース直後に第36回大会への参加に意欲があることを表明している。

 現時点ではソフトバンク・チーム・ジャパンの今後についてのアナウンスはないが、笠谷は「今後も挑戦を続けて、アメリカズカップで良い結果を出せるように頑張っていく」、吉田は「今大会で日本のチームが参加したことは次に向けての第一歩だと思う」とコメント。早福も、現役としての自身の進退には触れなかったが「決して終わりではなく、新しい挑戦のスタート」と意欲は十分だ。

 日本がもしこれまでの大会以上の成績を目指すのであれば、渡ったバトンを手放さずに走り続けるしかないだろう。第35回大会へのソフトバンク・チーム・ジャパンの挑戦は終わったが、今後のチームの動向に注目したい。

2/2ページ

著者プロフィール

1974年生まれ。本業はITやモバイル業界をメインに取材・執筆をしているフリーライター。海外取材も多く、気になるイベントはフットワーク軽く出かけるのがモットー。大学在学中はヨット部に所属し、卒業後もコーチとしてセーリング競技に携わっている。アメリカズカップのリポートをとおして、セーリング競技に馴染みのない人たちへヨットの認知度アップを狙っている

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント