ロティーナ「日本人はトライが少ない」 スペインの名将が東京Vに来て感じたこと

小澤一郎

日本人の失敗の少なさに物足りなさを感じる

ロティーナ監督は日本人のトライの少なさ、ピッチ上で選手が判断を変えられない点を指摘 【(C)J.LEAGUE】

――日本サッカーの特徴としてボール保持(ポゼッション)はうまく実行できるようになっています。しかし、ボールを前進させることがうまくないと私は考えています。

 サッカーにおいて、ゴールを決めるためには失敗しなければならない。バスケットボールの伝説的プレーヤーであるマイケル・ジョーダンは「数え切れないほどの失敗をしてきたからこそ、成功できた」といった趣旨の言葉を残しているが、サッカーでも同じことが言える。

 ラストパスをして味方が失敗するくらいなら、「自分でシュートを打って失敗しなさい」と私は選手に言っている。ゴールするためには、多くのシュートミスをしなければならないのだ。日本の選手からはミスに対する恐れを感じる。足でボールを扱うサッカーにミスはつきものであり、ミスは当たり前に起こるものと考えている。もちろん、ドリブル突破を10回試みて全て相手に奪われるようなら監督として怒るが、10回中、3、4回成功して決定機を作り出せるのであれば、ドリブル突破は選手にとっての強みであり、監督はトライさせる必要がある。

 日本でそうしたトライが少ない理由は国民性から来ているのか、教育から来ているのかは分からない。私は日本人選手を指導していてトライし、失敗することの少なさに物足りなさを感じている。

――東京Vでは、そうした日本人特有のメンタリティーをうまく変えていると思いますが、どのように変えることができたのでしょうか?

 まだ変えることができたとまでは言い切れないが、選手に多くの選択肢を持たせたうえで、積極的なミスはあってもいいという雰囲気は作り出せていると思う。あと、日本人選手への指導で難しさを感じる点は、ピッチ上で選手が判断を変えられないことだ。私のチームではスローインも含めてセットプレーをかなり綿密に用意して試合に臨むのだが、事前に用意していたことと少しでも異なる状況があれば、選手が見て、考えて、判断し、時にプランを変える必要がある。しかし、こちらが用意したこと、伝えたことをそのまま実行するケースが多いため、そこは選手に「見なさい、考えなさい、判断しなさい」と伝えている。

 サッカーでは全く同じ状況が繰り返されることはない。全く同じように見えても、相手が違っていたり、時間帯が違ってくるため、最終的には選手が自ら主導権を持ってプレーを決断していかなければならない。逆に言うと、監督は選手に要求したプレーを選手が自ら判断して変えた時、その決断を受け入れる必要がある。

攻撃は試合に勝つため、守備は目的を達成するため

トレーニングはパランココーチ(右)に任せており、ボール保持の面でスペイン時代とは異なると語る 【(C)J.LEAGUE】

――スペインでは「ロティーナは守備的な監督」という評価がありますが、同意しますか?

 その通りだ。私は守備がとても好きなので、そうした評価は全く気にならない。監督として早い段階からゾーンディフェンスを採用し、常にソリッドなチームを作ってきた。ただ、スペイン時代のロティーナと日本にいる今のロティーナは異なる。

 私は今、トレーニングをアシスタントコーチのイバン・パランコに任せている。彼はバルサ派、新しい世代の指導者だ。たとえばボール保持、前進というフェーズでは、彼をアシスタントコーチに持つことで私の指導法もかなり進化した。あと10年早く、スペインで彼と知り合いたかったと思っているくらいだ。

 スペインでは「攻撃は試合に勝つため、守備は目的を達成するためにある」と言われることがある。長いシーズンの目標を達成する上で守備は必要不可欠だ。たとえば、今季のバルセロナは守備で多くの問題を抱え、思うようなシーズンを送れなかった。本当に強かった数年前のバルサには(カルレス・)プジョル、(ダニエウ・)アウベスといった選手がいて、攻撃と同じくらい守備が強力なチームだった。スペインはバスケットボール、ハンドボールといった球技も盛んだが、サッカー以外の球技では守備の堅い、ソリッドなチームが一番高い評価を受ける傾向にある。

――プロの世界であっても選手に戦術を教え込み、選手を育成できると考えていますか?

 監督は選手を納得させる必要がある。われわれの場合、こうした時代であるため、映像を用いて納得させるようにしている。また、これは日本のアドバンテージだと思うが、日本人選手は学ぶことに飢えている。スペインの1部、2部には「もう十分サッカーを知っている」と考え、学ぶ意欲に欠ける選手がいる。

日本はスタジアムの友好的な雰囲気が素晴らしい

日本のスタジアムの雰囲気は、「スペインサッカー界に学んでもらいたい」と話した 【スポーツナビ】

――日本の生活には満足していますか?

 何の問題もない。何より安全で、机の上に財布や携帯電話を置き忘れても戻ってくる国などない。

――スタジアムの雰囲気やサポーターの声援にも驚いているようですね。

 たとえばアウェーゲームで相手チームのスタジアムに到着した時、相手サポーターから拍手や声援が届くというのはこれまで経験したことがない。スペインでは当然、ブーイングや野次(やじ)が飛んでくる。スタジアムの友好的な雰囲気も素晴らしいもので、特に試合後のチームとサポーターとの交流、連帯感はぜひスペインサッカー界に学んでもらいたいと感じている。

 私はプロのサッカーチームは最終的にサポーターを満足させるために試合を戦うと考えている。勝利やお金のためでもあるのだろうが、そういったものだけが戦うモチベーションにはならない。日本サッカーにもいいものがたくさんあるため、欧州の全てに羨望の目を向け、まねる必要はない。また、スペインからロティーナという監督がやってきたからといって、私の全てを受け入れる必要もないのだ。私も日本から、日本のサッカーから学ばせてもらっている。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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