VVV藤田俊哉コーチインタビュー<後編> 契約延長か新たな挑戦か、悩む心境を吐露

中田徹

VVVで3年半過ごした藤田コーチ。自身の去就をどう考えているのか 【VI-Images via Getty Images】

 来季1部昇格を決めたオランダ2部リーグVVVのマウリス・スタイン監督と藤田俊哉コーチの付き合いも3年になった。オランダでは「スタイン監督にイングランドのイプスウィッチ・タウンが興味を示している」という報道があった。指揮官は「今、自分は来季のVVVがエールディビジ(1部)で戦うことに集中している」と語る。

 さて、藤田本人は自身の去就をどう思っているのだろうか。かつて、ユトレヒトの一員としてエールディビジを経験した藤田だが、指導者としてベンチから見るオランダ1部リーグの景色はまた違ったものになるはずだ。

 だが、レネ・トロースト前監督の時から合わせれば、すでに藤田はVVVに3年半もいる。そろそろ次の挑戦の時期が来ているような気もするのだが――。今回はそのことを尋ねる前に、藤田に「家族とフットボール」の話を問うてみた。

藤田が感じるオランダ人のメンタリティー

――藤田さんと近しい吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)、川島永嗣(メス/フランス)の今季の頑張りには、涙が出そうでした。

 そうだよね。彼らは苦しい時期を乗り越えた。麻也が所属クラブの年間最優秀選手としてノミネートされたり(結果は2位)、4月のクラブ月間MVPになったりした。永嗣もメスで第3GKとして始めて、シーズン終盤にレギュラーになった。何より、彼が代表に返り咲いたのがうれしいよね。(本田)圭佑がなにげなく電話してきたら、僕は偶然、VVVの(2部優勝)パレードでバスの上だったとかね。

――本田選手は喜んでいたでしょう?

「優勝、良かったですねえ」って冷静だったよ。でも、心から良かったと思ってないと、電話はくれないでしょう。

――本田選手も、VVVが2部リーグにいるのはつらかったみたいです。

 そりゃ、そうだよ。自分がいたクラブは強い方がいいから。彼も(ミラン退団を発表し)、正念場はこれからでしょう。確固たるものはあるわけだから、これからどうするんだろうという思いはある。彼は野望が大きいから、次の準備をしているはずだよね。

 例えば、今のVVVの選手を見ていて、来年、自分がプレミアリーグでプレーする準備をしている選手は正直見つからないものね。オランダ人のメンタリティーは「ここの生まれ故郷でプレーできたらいいじゃん」「オランダがいいじゃん」という感じが強い。

オランダでは、家族単位の話が一番大事

シーズン中に帰国できたのは、スタイン監督(左から2番目)の理解のおかげだという 【VI-Images via Getty Images】

――3月は日本にいたそうですね?

 クラブの仕事があったから。それは前々からクラブに言われていたことだった。そのタイミングでちょうど娘と息子の卒業式が重なり参加した。その他にはロアッソ熊本にも行って、復興関連のこともした。

 子供の卒業式は感慨深かったよね。オランダには家族全員で来たけれど、娘は大学進学のことを考えて、昨年日本へ帰っていたから大変だったはず。息子はもっとこっちに残りたいと言っていたけれど、日本の中学入学のタイミングで帰国した。中学は日本で卒業し、その上で日本の高校に行きたいなら行けばいいし、留学したいならすればいいと考えた。

 いくら忙しくても、せめて子供たちの大事な瞬間に立ち会うのは最低限の僕の務めだと考えている。選手時代から家を空けがちだったから、なおさら今はそう思う。それでも入学式には参加できなかったよ。僕も優勝争いの佳境だったので……。その中で何とか時間を作って日本に行って、優勝の瞬間にも立ち会えて、万事うまく収まったから最高だった。

――段取りが良かった?

 そう。でもそれは全部、クラブの協力やモウリス(スタイン監督)の「お前も大変だろうから」という理解のおかげ。オランダではみんな、家族単位の話が一番大事。彼らは家族のことと、他の何かを比較することはない。家族とフットボールだったら、明らかに家族を選んでいいと考えている。とても人間的な生活だと感じている。

 人によっては、ペットも家族。うちのコーチがある時、「今日は少し早く帰らせてくれ。妻がペットを病院に連れていかないといけないんだ。ちょっと危ないんだよね」ってさ。僕も一瞬「えっ!?」と思ったけれど、オランダではこんな感じなんだと思った。

 クラブや監督に、家族のことで相談したら、そこに対して戸惑って返事が来たことはない。一言、「行け」と。その代わり、監督も何かがあったら、家族のところへ行くけれどね。そんな時は俺らも分かっているから、監督に「俺たちが練習を全部やるから大丈夫だよ」と言う。その辺に当たり前の加減がある。日本だと、なかなか言いづらいというのがあるかもね。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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