精神的、肉体的にブラック援助 「競馬巴投げ!第146回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

肉体的援助って、そんな言葉を野球場で使っていいのか?

[写真3]クラレント 【写真:乗峯栄一】

 もう10年ぐらい前のことだが、あまりの衝撃に、いまもメモが残っている出来事がある。

 プロ野球の中日・阪神戦、中日のイ・ビョンギュという走者を三塁の苫篠コーチが制止したとき体が触れた。

 阪神側が何やら抗議して審判団が協議し、「苫篠コーチの走者に対する肉体的援助がありましたのでイ選手はアウトとします」とアナウンスする。

 ぼくなど(たぶん多くの野球おじさんも)判定がどうこういう前に「肉体的援助って、そんな言葉を野球場で使っていいのか?」とドギマギした。

 気になって調べてみたが、確かに公認野球規則7・09(h)に「ベースコーチが走者に触れるか支えるかした場合は肉体的な援助として走者インターフェアとする」とある。へえ!

 つまりあの場合、苫篠コーチが「イビョンギュ偉いなあ、めっちゃ走るやん」と大声出したのなら、審判団協議も「三塁コーチよりイ選手に精神的援助がありましたが、これは野球規則に違反しておりません」となるはずだ。「やった、やった」とコーチが手を叩いたり、「キミの走塁は凄いなあ」などと誉めても問題にはならない。「精神的援助」はセーフなのだ。

「イビョンギュ行け! 少ないけど、これご褒美!」とコーチボックスからホームに走るイ選手に一万円渡したとしても「ただいま三塁コーチより走者に金銭的援助がありましたが、これは野球規則に違反しておりません」となる。「公認野球規則」に「試合中の金銭的援助は走者インターフェアとなる」という項目はない。

競馬の“何的”援助、いまのところのぼくの結論は……

[写真4]ブラックスピネル 【写真:乗峯栄一】

 大事なのは“何的”援助かだ。

 援助交際が問題なのは“金銭的”援助交際だからだ。精神的援助交際なら「キミ落ち込んでるのか? ぼくが付き合って精神的に支えてやるよ」って、これはごく普通の恋愛だろう。肉体的援助交際なら「何? 体がフワフワして倒れそう? じゃ、ぼくのこの強い体で支えてやろう」って、これもアリじゃないのか?

 野球では「肉体的援助」が×で「精神的援助」「金銭的援助」は○である。

 交際では「金銭的援助」が×で「精神的援助」「肉体的援助」は○である。

 競馬ではパドックで一万円札出すのは(効果はないだろうが)×とはなっていない。パドックで「かわいいねえ」とか「キミ、今日は走れるよ」と馬を誉める「精神的援助」は○である。問題は肉体的援助だ。コースに出て後ろから馬の尻を押すのは×だが、装鞍所あたりに入って「オレ、キミに何も援助できないから、これでも使って」とズボンを下げ、裸の尻を差し出す肉体的援助は、たぶん明確には禁止されていない。自分の本命馬がそれで「ああ、おかげでスッキリしたよ」と気分よくレースに出て猛烈に走れば本望というものだ。

 競馬では「精神的援助」は○で「金銭的援助」「肉体的援助」も両方とも条件付きではあるが○というのが、いまのところのぼくの結論だ。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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