平野美宇が挑む世界1位・丁寧とは ドラえもん好きで中国には親衛隊も

月刊『卓球王国』

平野にとってここからが本当の勝負

日本女子48年ぶりとなるシングルスでの表彰台入りを決めた平野。準決勝では世界1位の丁寧と対戦する 【Photo by Maja Hitij/Bongarts/Getty Images】

 混合ダブルスでの吉村真晴/石川佳純(名古屋ダイハツ/全農)のメダル獲得に始まり、日本のメダルラッシュが続く卓球の世界選手権・デュッセルドルフ大会。大会5日目の6月2日には男女ダブルスで計3つのメダルが確定。そして平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園)が日本女子では48年ぶりとなる女子シングルスでの表彰台を決めた。

 4月のアジア選手権で中国勢を連破し、他国の選手が警戒を強める中で大会に臨んだ平野。ドロー(組み合わせ)抽選の結果、中国選手のいないブロックに入る運も見方につけ、見事メダルを確定させた。中国選手との対戦がなかったとはいえ、準々決勝で世界ランキング4位のフェン・ティアンウェイ(シンガポール)を圧倒するなど、堂々の試合運びで、アジア選手権での活躍がフロックではないことを証明している。平野以外に準決勝に進出した選手は全員中国勢。優勝に向けて中国勢との2連戦となる、ここからが本当の勝負と言えるだろう。

 平野へのリベンジを期す中国女子は、大会開幕直後に孔令輝監督が借金スキャンダル報道で緊急帰国という波乱の幕開けとなった。それでも動じることなく女子シングルスでは出場5選手全員がベスト8に勝ち上がるなど、強さは健在。他国の選手とペアを組んだ混合ダブルスを除けば、同士討ち以外で敗れた試合はなく、アジア選手権では対応に苦しんだニッタク(日本卓球株式会社)製のボールにも、しっかりとアジャストしてきているように感じる。

敗れてなお這い上がる強さを持つ丁寧

数々の挫折を味わいながら頂点に上り詰めた丁寧。素顔は天真爛漫な明るい性格で、人気も高い 【Photo by Maja Hitij/Bongarts/Getty Images】

 平野が準決勝で対戦するのは現世界選手権王者でリオデジャネイロ五輪金メダリストの丁寧。アジア選手権では準々決勝でマッチポイントを握りながら平野に逆転負けを喫し、今回は並々ならぬ思いで平野に挑んでくるだろう。
 
 2005年の世界ジュニア選手権を制した丁寧は、順調に成績を伸ばし、2009年の世界選手権・横浜大会ではダブルスで銀メダルを獲得。しかし、翌年の世界選手権団体戦では主力として起用されながら、決勝でシンガポールに敗れて中国の連覇を8で止める挫折を味わった。

 その敗戦をバネに1年後の世界選手権では女子シングルスで初優勝。20歳で世界王者となった。しかし、翌年のロンドン五輪シングルス決勝では審判のジャッジにも泣かされ、決勝で敗戦。再び失意の時を過すこととなる。

 敗れてなお這い上がるのがこの選手の強さ。2015年の世界選手権シングルス決勝では足を痛めながらも世界王者の座を奪還し、昨年のリオデジャネイロ五輪シングルスでは、4年越しの悲願であった金メダルを獲得。挫折と栄光を繰り返しながら、世界最強の選手に上り詰めた。

 父親は元スピードスケート選手、母親も元バスケットボール選手というアスリート一家に生まれ、170センチを越える長身から女子選手離れした豪快な強打を打ち込むスタイルは「大器」という言葉がピタリと当てはまる。ボーイッシュなルックスと、愛嬌のある笑顔、天真爛漫(らんまん)な明るい性格で人気も高く、中国には女性を中心とした「丁寧親衛隊」とでも言うべきファンクラブも存在。試合会場では観客席の一角で存在感を放つ。そして意外(?)にも「ドラえもん」が大好き。小誌のインタビューの際にドラえもんグッズをプレゼントすると非常に喜んでいた。引退後にしたいことは、バックパッカー。世界各地を旅して見聞を広めたいのだという。

 試合中の相手を射抜くような鋭さと、普段のどこかほんわかした雰囲気とのギャップが多くの人を惹き付ける。世界王者・丁寧は人間としての魅力にも満ちあふれた模範的なアスリートでもある。

東京五輪に向けた第2ラウンド

3年後の東京五輪に向けた第2ラウンド。勝負の行方はいかに 【写真は共同】

 ギャップで言えば、対する平野も負けていない。少女のあどけなさに、勝負師としての負けん気と勝負度胸が同居する17歳。史上最年少記録を塗り替え続けて世界を驚かせたかと思えば、ITTFのインタビューでは踊り倒してアッポーにペンを突き刺す。独特の感性の“ミウ語録”でメディアを盛り上げ、「試合に勝つのがスポーツ選手だから、好感度は気にしない」「『優勝したい』と言っても、誰も獲らせてくれないから『優勝する』と自分で言い続ける」など、大人がドキッとするようなことも口にしたりする。「ハリケーン」と称される彼女のプレースタイル同様、アスリートとしても型破りな存在に映る。

 昨年、平野が中国・超級リーグに参戦し、丁寧の所属するチームとの対戦後、テレビの取材に対し、「私の目標は東京五輪でチャンピオンになること」とアウェーで少々大胆な宣戦布告をしている。この日、平野に圧勝していた五輪女王・丁寧は笑顔を見せて「……なんて言ったらいいのかな、確かに4年後の東京では、日本選手は地の利もあるし、私たちもしっかり準備しないといけないですね」と、“らしい”コメント。なんとも微笑ましいやり取りとなったが、この宣戦布告も平野のアジア選手権制覇により、笑顔で見過ごせる少女の夢物語ではなくなりつつある。3年後の東京五輪に向けた平野vs.丁寧の第2ラウンド、勝負の行方はいかに。

(文:浅野敬純/卓球王国)
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